書評

『星を掬(すく)う』町田そのこ著(中央公論新社・1760円)器用さ加わり一層巧みに

町田そのこ著『星を掬う』
町田そのこ著『星を掬う』

町田そのこが『コンビニ兄弟―テンダネス門司港こがね村店』を書いたとき、こういう「普通の小説」も書くのか、と驚いたことを思い出す。というのは、『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』から『52ヘルツのクジラたち』まで、町田の作品は「普通」ではなかったからだ。どこか尖(とが)っていて、ざらざらしていて、ぎくしゃくしていた。語りたいことがたくさんあるのに、それを綺(き)麗(れい)にはまとめられず、いやまとめないからこそ読者の心を摑(つか)むのだが、この作家はどこに行くんだろうと思っていた。気になっていた。

そういうときに『コンビニ兄弟』が出てきたのだ。これはコンビニを舞台にした連作集で、『52ヘルツのクジラたち』の作者とは思えないほど、妙な言い方になるが、「器用な普通小説」だった。なぜ、町田は『コンビニ兄弟』を書いたのか。その意味が、この『星を掬う』で解ける。

本書は女性4人の共同生活を描く長編小説だ。元社員寮の「さざめきハウス」に住んでいるのは、元夫のDVから逃げてきた千鶴とその母、聖子。千鶴は小学校1年のときに母に捨てられたのだが、訳あって今は同居。他の2人は美容師の恵真に、介護施設で働く彩子。恵真は聖子のことをママと呼んでいるが、実の母子関係ではない。高校1年から行き場のない恵真を親代わりになって育ててくれた関係だ。彩子もまた娘と離れて暮らしているという家族の問題を抱えているが、聖子と知り合って、ハウスで暮らすようになっている。つまり、それぞれが問題と事情を抱えているのだ。

聖子の若年性認知症が少しずつ進行していること。彩子の17歳の娘、美保が大きなおなかで訪ねてくること。さらには、DV夫の影がちらつくこと。さまざまな問題を孕(はら)んで、物語は波乱含みで進んでいくが、人物造形はよく構成と展開もよく、驚くほど滑らかだ。ある種の感慨がこみ上げて来るラストまで、一気読みの傑作といっていい。

『コンビニ兄弟』があったから本書が生まれたことを実感する。『52ヘルツのクジラたち』に『コンビニ兄弟』の器用さを振りかけると、本書が生まれるということだ。平たく言えば、町田そのこは一段と巧(うま)くなったと申し上げたいのである。

評・北上次郎(書評家)