歴史学は、世の動向に極めて敏感に反応するところがあります。昨今ならばやはり、新型コロナ禍です。具体的にいいますと、感染症の歴史との対比でコロナ禍にまつわる問題を取り上げようとする傾向がみてとれます。私は、時流に無頓着であることにかけては人後に落ちないと自認しています(決して自慢ではありません)。それでも、多くの人びとを苦しめ続けてきた感染症の歴史には無関心ではおられませんでした。
甘酒と感染症
私の専門とする幕末維新史でいえば、輸入感染症の一つであるコレラがその対象となるでしょう。『病が語る日本史』(酒井シヅ著)によりますと、コレラが西日本各地を中心に大流行したのは文政5(1822)年のことで、死亡者数は十数万人と推定されています。でもこのとき、江戸には被害が及びませんでした。