山本一力の人生相談

夫の「ありがとう」が聞きたくて

イラスト・千葉真
イラスト・千葉真

相談

60代主婦。結婚40年。子供3人、一番下は20代です。夫は20年間、単身赴任。はじめは自宅が職場から遠くて「仕方なく」でしたが、数年後、会社まで1時間ほどの場所に転居後も十数年、単身赴任のまま。以降、2カ月に1度、帰宅します。

そのたびに私は「お仕事ご苦労さま」と感謝を伝えますが、夫は一度も、私に「ありがとう」と言葉をかけてくれたことがありません。一方で、私が日常会話のつもりで話したことも、夫は気に障るといって怒り、おかずの盛り付けにも小言を言います。私は夫の機嫌が悪くならないようにと、言い返しません。

「ありがとうと言って」と伝えたら、「この年で言えるか」です。そんな夫も間もなく定年退職。自宅に戻ります。夫と歩み寄るヒントが欲しいです。

回答

22で結婚、第3子を当年22と仮定すれば、四十路の入り口で授かった子となる。

遅い子誕生とほぼ時を一にして、旦那は単身赴任という名の別居を始めた。

さほど遠くもない今の自宅に戻るのは2カ月に一度で、週末の2~3日。

相談文面をなぞれば、こんな暮らしが20年も続いていることになる。

先のふたりの子は3番目誕生時、すでに就学していたのではないか。

学費もかさみ始めるのを承知で、3人目を授かった。ところがさほど間をおかず、旦那は通勤不便を理由に単身赴任を始めた。

こども3人の学費を工面しつつ、所帯が二つ。育ち盛り3人を抱えての家事までこなす大変さは、想像するに余りある。

この状況に基づく旦那像。わたしには身勝手な男しか、思い浮かべられない。

が、あなたはそのご主人と、歩み寄るヒントが欲しいと投稿された。

まこと酷な言い方を承知で申し上げる。

旦那が変わる可能性は極めて薄い。しかし、それでいいじゃないか。

相手の身勝手さがどうであれ、あなたはいままで通りに進めばいい。

たとえ願い通りに相手が変わったとしても、こんなことを願ったわけではないと、落胆される可能性は否めない。

たとえ「ありがとう」を言われても、それがあなたの期待していた喜び、満足につながるかは大いに疑問だ。

なぜなら求めているのは言葉ではなく、本気の感謝・お礼を言わせてくれる、こころの変化を願っておいでと思えたからだ。

なにがなんでも結婚するのだと、思い詰めて結婚しても、思い違いが身に染みて破局に至る事例が、昨今は世に溢(あふ)れている。

相手に求めずとも、あなたなら残る人生に降り注ぐ陽光を、身に浴びられようぞ。


回答者

山本一力 作家。昭和23年生まれ。平成9年「蒼龍」でオール読物新人賞を受賞しデビュー。14年「あかね空」で直木賞受賞。近著に「湯どうふ牡丹雪 長兵衛天眼帳」(KADOKAWA)、「牛天神 損料屋喜八郎始末控え」(文芸春秋)、「ジョン・マン7 邂逅(かいこう)編」(講談社)、「後家殺し」(小学館)など。

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