ザ・インタビュー

釧路仕切る「女のワル」の行方 作家・桜木紫乃さん『ブルースRed』

作家の桜木紫乃さん(提供写真、原田直樹撮影)
作家の桜木紫乃さん(提供写真、原田直樹撮影)

平然と人を殺(あや)める女は、どんな末路を迎えるのか。ラブホテルを舞台に男と女の人生を切り取った直木賞受賞作『ホテルローヤル』(平成25年)で知られる性愛文学の名手が、新たなノワール小説を出した。主人公は、北海道・釧路の街を裏社会から仕切る影山莉菜。「女のワルには、できないことがない」という継父・影山博人の言葉に支えられ、その血を引く少年を代議士に担ぎ上げようと策謀をめぐらす。

「なぜ博人はこんなことを言ったのか、疑問に思いながら書いていました。設定を最初から作るということをしないので、書いてみないと分からない」

博人とは、青年漫画にもなった小説『ブルース』(26年)の主人公。貧困のどん底にあった少年が長じて釧路の夜の支配者にのし上がる。今作はその続編。博人の死後に別の物語が展開される。時は流れ、舞台は空洞化が進む釧路の中心市街だ。

「駅前の土地がどこかの国の資本に出されなければいい。生活にいっぱいいっぱいで、気づいたら自分たちの街ではなくなっている可能性がある。全国各地にこんな街があるとすれば、私が舞台にしやすい街。こういうふうにならなければいいという気持ちも含めて書いています」。こんな問題意識がある。

■ ■ ■

釧路市生まれ。高度経済成長期を背景とした前編『ブルース』で、博人が生まれた場所に設定したのは、自身の実家がラブホテルを始める以前に理髪店を営んでいた町だ。作中では官舎や一戸建ての並ぶ「高台」と対比し、崖と産業道路にはさまれた「下の町」として描かれる。「猫の額みたいな土地。うちの親はそこで床屋(とこや)をやっていました。この時代を私がリアルに描ける街は釧路です」

その店の近所にあった長屋が博人の住まいのモデル。博人の母が化粧水を飲んで自殺を図るエピソードは、実際に起きた出来事から着想を得た。「あれが全部、財産になるとは思わなかった」と振り返る。

今作でも、影山家はネオン街を支配し、選挙をも左右する。しかし、郊外の大型商業施設に客を奪われた中心街は次第に寂れ、影山家は力を削がれる。

「これから、どんどん街の地場産業がなくなっていく。ファンタジーを書いているけれど、こういう街は全国にある」

戦後に炭鉱と漁業、紙・パルプで栄えた釧路市の人口は、昭和50年代の約22万人をピークに約16万人まで減少。かつて商業施設が立ち並んだ駅前の目ぬき通りは、下ろされたままのシャッターが目立つ。典型的な地方都市のありさまには、身につまされる読者がいそうだ。

■ ■ ■

月刊誌で28年5月から今年1月にかけ、間隔を空けて書いた短編10本を1冊にまとめた。莉菜は、自分が原因で博人を殺されたという重い十字架を背負いながら、死に場所を求めて生きている。1本目を書いたときは「死ぬだろう」と思っていた莉菜が一緒に年を取り、やがて思いもよらぬ地にたどり着く。

読みどころは「時間の経過」だという。「人が年を重ねて変わるということが書かれていると私は思っています」と話す。

フィクションの世界にリアリティーを与えるのが、情景描写だ。河口の夕日は、莉菜が何十年も眺めた景色。7月の青々とした釧路湿原に吹く風は、莉菜の波立つ心を表すようだ。氷をよけて歩く冬の道。ご当地グルメのスパゲティカツレツ。

現在は、札幌近郊の江別市に住む。「15、16年住んで、やっと四季が分かって、舞台として困らなくなりました」。日常のあらゆる場面を糧として、作家が投げた問いに、答えを見つけられるだろうか。

3つのQ

Q釧路のおいしいものは?

釧路以外の人にあまり理解されない、ゆですぎのスパゲティがソウルフード。ナポリタンとかスパカツ。あとは釧路発祥といわれるザンギ(唐揚げ)

Q北海道のいいところは?

しぶとい。あと、血縁にしばられない。核家族の歴史が100年なんです

Q新型コロナウイルス禍でどのように過ごしたか

明らかに変わったのは取材を受ける機会が多くなったこと。リモートでできるので、北海道にいるハンディがなくなりました

さくらぎ・しの 昭和40年、北海道生まれ。平成14年、「雪虫」でオール読物新人賞を受賞。19年、同作を収録した『氷平線』で単行本デビューした。25年、『ラブレス』で島清恋愛文学賞。直木賞受賞作『ホテルローヤル』が昨年、実写映画化されて話題になった。