鉄道ファンがサポーター 「天空の駅」発のトロッコ列車

廃線となった三江線の旧宇都井駅を出発するトロッコ列車=島根県邑南町
廃線となった三江線の旧宇都井駅を出発するトロッコ列車=島根県邑南町

島根県と広島県を結び、平成30年3月に廃線となったJR三江(さんこう)線の線路やトンネルなどの遺構を活用し、10月から島根県邑南町(おおなんちょう)のNPO法人が県境を流れる江(ごう)の川にかかる鉄橋を渡るトロッコ列車を走らせる社会実験を行っている。地上約20メートルにあることから廃線直前には「天空の駅」と人気を集めた旧宇都井(うづい)駅(同町)を発着点に運行する往復約1・5キロ。NPOは地元住民と全国の鉄道ファンで成り立ち、小さなトロッコ列車は地域振興の夢と、鉄道ファンの愛を乗せて走る。

島根県と広島県境を流れる江の川にかかる鉄橋を走るトロッコ列車
島根県と広島県境を流れる江の川にかかる鉄橋を走るトロッコ列車

トンネルを出たら広島

「それではトロッコ列車出発します」

11月上旬の土曜日、田園風景の中にぽつんとたたずむ旧宇都井駅から、2両編成の蓄電池モーターを動力とするトロッコ列車が走り出した。この駅はエレベーターもエスカレーターもなく、116段の階段を上るしかない。天空の駅に着くのは簡単ではない。

トロッコは運転手と車掌を除けば、乗客は6人まで。小さな車両は一度バックして隣の旧石見都賀駅までを結ぶトンネル内を走り、再び前進する。「下郷トンネル」から江の川にかかる鉄橋「第3江川橋梁(きょうりょう)」を渡って広島県三次市(みよしし)に入る。渡り終えてすぐの柳原トンネル前で止まり、降車して普段立ち入ることのできない線路上での記念撮影を楽しむと、再びバックで宇都井駅へ。約35分の行程だ。

トロッコは足元が一部空いており、水面まで高さ約30メートルの第3江川橋梁を渡る際は、高所恐怖症の人なら悲鳴を上げそうなスリルもある。帰りの下郷トンネルでは、動物などのイルミネーションをトンネル内に投影して乗客を楽しませる。徐々に色付く紅葉も堪能できる。

両親とともにトロッコに乗った島根県出雲市の多久和佑亮ちゃん(3)は、新幹線が好きで参加したといい「川の上も怖くなかった。(イルミネーションに)ネコがおって面白かった」。父親の公務員、誠治さん(30)は「鉄道がなくなるのは、自治体がすたれていくことにつながる。三江線は廃線になったが、地元の足として鉄道は残していかないと」という。

トロッコ列車の前で記念撮影する親子連れ=島根県邑南町
トロッコ列車の前で記念撮影する親子連れ=島根県邑南町

地域はなくならない

旧宇都井駅と旧口羽(くちば)駅の周辺施設はJR西から邑南町が取得。今年4月から『三江線鉄道公園』として整備した。社会実験を企画したNPO法人「江の川鉄道」がその指定管理者になった。NPOの森田一平さん(53)は「遺構を生かした地域の活性化を考えています」と話す。

今回の社会実験は10、11月の週末を中心に、計7日間に1日6便ずつ実施。旧宇都井駅と旧口羽駅の間にある旧伊賀和志駅のある広島県三次市を巻き込んだ観光の可能性を探る。

トロッコの運行に合わせて町内や三次市内での宿泊プランも用意した。

森田さんは「鉄道資産を生かせば、お客さんがたくさん来ると三次市側にもアピールしたい。将来は、旧宇都井駅から旧伊賀和志駅を経由して、旧口羽駅までの約5キロを運行するトロッコ列車を走らせたい」と展望を語る。

三江線の廃線直前には、「天空の駅」との別れを惜しむ鉄道ファンが押し寄せた旧宇都井駅は、それまでの数年間は一日の乗降客がゼロの日も多かった過疎の駅。それが観光資源となるのだろうか。

トロッコ列車の運転手=島根県邑南町
トロッコ列車の運転手=島根県邑南町

地域サポーターをつくる

NPO「江の川鉄道」は、三江線の存続活動を訴えていた人たちをコアメンバーに平成30年5月に結成された。約100人のメンバーは沿線の住民だけでなく、むしろ、全国の鉄道ファンが多数を占めるのが特徴だ。

NPOは今回の旧宇都井駅発着の実験だけでなく、これまでも旧口羽駅発着のトロッコ列車の運行など、鉄道ファンの心をくすぐるイベントを何度も実施してきた。

理事を務める広島商船高専の風呂本武典准教授も鉄道ファンの一人。「過疎地の振興には地元の住民、観光客だけでなく、地域のサポーターを増やしていかなければいけない」と話す。

森田さんは「鉄道はなくなっても地域はなくならない。トロッコを使って人が生き生きする町を作りたい」という。理事長の日高弘之さん(80)は「私たちはこれまで年間40日間程度トロッコ列車を走らせ、500人くらいが訪れてくれた。廃線で終わりではなく、その資産を生かしていきたい」と話していた。(藤原由梨)

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