次世代のブレイン・コンピューター・インターフェイスになるか 脳に埋め込む微細なチップが秘めた可能性

現時点での研究開発の限界

BCIは1970年代から研究開発が進められてきた。近年では、一部の身体まひ患者がBCIを用いることで、考えるだけでタブレット端末を操作したり、コンピューターに文字を素早く入力したり、ロボット義肢やPCの画面のカーソルを動かしたりできるようになっている。

脳や脊髄を損傷した人々は、将来的にBCIによってコミュニケーション能力や運動機能を回復し、より自立した生活を営めるようになるかもしれない。

だが現時点では、BCIはそこまで実用的ではない。大半はセットアップが煩雑で、研究室でしか利用できないのだ。また、脳インプラントが一度に記録対象にできるニューロンが比較的少ないせいで、脳インプラントを装着した人々がこなせる動作の種類にも限りがある。

BCIとして最も広く使われているユタアレイ電極は、先端に電極がある100本のシリコン製の針が剣山のように突き出ており、それを脳組織に突き刺す仕組みだ。ユタアレイ電極は米国の1セント硬貨に刻まれたエイブラハム・リンカーンの顔くらいの大きさで、刺した場所の周囲にある数百のニューロンの活動を記録できる。

究極の目標とのギャップ

しかし、記憶や言語、意思決定といった研究者が関心をもつ脳機能の多くは、脳全体に広く分布するニューロンのネットワークと関連がある。

「こうした機能が実際どのように作用するのか理解するには、脳のシステムのレベルで脳の機能を研究する必要があります」と、ワシントン大学心理学部准教授のチャンテル・プラットは言う。彼女は頭部に装着するタイプの非侵襲的なBCIを開発しており、ニューログレインのプロジェクトには参加していない。

より多くのニューロンの活動を記録できれば、さらに細やかな運動制御が可能になり、脳を制御するデバイスの現段階での可能性を広げられる。ニューログレインを動物に使用すれば、脳の異なる領域が連絡をとり合うメカニズムについても理解を深められるだろう。「脳の働きについて理解したいのであれば、各部分の個別の働きをよりも、全体の働きを理解するほうがずっと重要なのです」と、プラットは語る。

ユタアレイ電極を開発しているBlackrock Neurotechの共同創業者兼社長のフロリアン・ゾルツバッハによると、脳に埋め込み型デバイスを分散させるシステムは、基本的な運動機能やコンピューターの利用を可能にするような当面の用途の多くには必要ないかもしれないという。だが、記憶や認知の回復のようなさらに将来的な用途においては、ほぼ間違いなくより複雑なシステムが必要になってくるだろう。

「当然ながら究極の目標は、脳の表面から深部まで、すなわち脳全体からできる限り多くのニューロンの活動を記録できる技術です」と、ゾルツバッハは言う。「でも、それほど複雑なものがいますぐ必要でしょうか? おそらく必要ないはずです。それでも脳の理解や技術の将来的な応用の検討という観点からは、情報は多いほどいいのです」

またゾルツバッハは、小型のセンサーほど脳の損傷も少なくなると指摘する。現状でもすでに小型ではあるが、埋め込んだ場所の周囲に炎症や瘢痕を生じかねない。

「一般的に小さくつくられたもののほうが、免疫システムによって異物と認識されづらくなります」と、今回の研究には参加していないゾルツバッハは言う。身体は破片のような異物を認識すると、それを溶かして破壊しようとするか、瘢痕組織で包もうとする。