朝晴れエッセー

駄々っ子・11月13日

私がプロ野球を知ったのは昭和41年、小4のときでした。

当時福岡では巨人軍の公式戦がなかったため、巨人戦を見られるのは大リーグとの親善試合だけでした。

その年はドジャースがやってきました。試合予定は11月13日の日曜。小倉球場(現北九州市民球場)が会場でした。

何としても王貞治選手を生で見たかった私は、父母にねだって前週の日曜、前売り券を小倉まで母と買いに出かけたのです。車のない時代ですから、バスを乗り継いでの一日仕事でした。

やっとの思いで手に入れたチケット。そして、運命の13日がやってきます。

予報では曇りだったのに天気の移り変わりが一日早く、当日は朝から土砂降りの雨。それでも一縷(いちる)の望みをもって球場まで出かけました。

試合開始は午後1時。チケット売り場の女性に父が尋ねます。「今日は、やはり中止でしょうかね」「そうですね。このままではちょっと難しいでしょうね」。はっきり断定しないのが優しさなのでしょう。

結局11時過ぎに中止が決定します。宣伝カーが「本日の日米野球は雨のため中止となりました」と走り始めます。詰めかけていた人たちも三々五々帰っていきます。

しかし、私は入り口ゲートにしゃがみ込み動かなかったのです。父がいくらなだめすかしてもあきらめがつきません。父を困らせ続けたのでした。

あれから55年。父も母も他界してしまいましたが、今でもその日のチケットは引き出しに大切にしまっています。


原田宏志 65 福岡県福智町