歴史作家、町の本屋さんになる

今村翔吾さん、閉店危機の書店継承

経営を引き継いだ「きのしたブックセンター」の店内で「地元に末長く愛される書店にしたい」と語る今村翔吾さん=1日、大阪府箕面市(横山由紀子撮影)
経営を引き継いだ「きのしたブックセンター」の店内で「地元に末長く愛される書店にしたい」と語る今村翔吾さん=1日、大阪府箕面市(横山由紀子撮影)

歴史作家、今村翔吾さん(37)が、閉店が危ぶまれた阪急箕面駅(大阪府箕面市)近くの書店経営を引き継ぎ、リニューアルオープンさせた。同駅周辺にある唯一の一般書店で、「町の書店の灯を絶やしてはならない」と、作家業との両立を選択した。出版不況で書店業界は苦戦を強いられているが、「本との出合いで人生が変わることだってある。作家として新たな書店の可能性を模索したい」と意気込む。

常連客ら次々

今月1日、大阪府北部の阪急箕面駅から徒歩5分にある商業ビルの1階に、今村さんが経営者となった書店「きのしたブックセンター」が新装開店した。午前11時、黒と朱色のシックな壁紙で新しくなった約150平方メートルの店内に、常連客らが次々と訪れた。

カウンターでは、今村さんが自身の新刊小説『塞王の楯』の購入者にサインをする場が設けられた。兵庫県尼崎市内から来た通信制の高校生(17)は、「今村さんからサイン本をもらえてファンとしてうれしい」と喜んだ。

大人向けのパズル「点つなぎ」を購入した箕面市内の女性(83)は、「近くに一般の本屋さんはここしかないので、なくなったら楽しみが奪われてしまう。インターネットで本の注文の方法も分からないので」と話した。

元の書店は昭和42年に創業し、最盛期には4店舗を展開したが、近年はこの1店舗だけとなっていた。10年ほど前に2代目が引き継いだが、書店経営の厳しさを実感。ただ、地域住民に愛された書店を閉じるのは忍びなく譲渡先を探していたところ、知人からその話を耳にした今村さんが「町の書店をなくしてはいけない」と、縁もゆかりもない書店経営に手を挙げた。

「インターネットで便利に本が買える時代だけど、リアルな書店は店内で思いがけない本と巡り合える良さがあり、時に人生を変えることだってある」(今村さん)

店名は長年、地元で愛されてきた元の名の一部を踏襲し、店長ら従業員を継続雇用した。壁紙を張り替えるなど、老朽化した店内を全面改装。在庫も増やし、本に囲まれるワクワク感を演出している。

作家が支える意義

カウンターに立ち、新刊本にサインをしてファンと語らう今村翔吾さん=1日、大阪府箕面市(横山由紀子撮影)
カウンターに立ち、新刊本にサインをしてファンと語らう今村翔吾さん=1日、大阪府箕面市(横山由紀子撮影)

若者の活字離れ、インターネット書店や電子書籍などの普及で、書店は苦戦を強いられている。今村さんは「いい小説を書いて業界を盛り上げます」としか言えないジレンマを感じていたという。

作家として、読者に本を届ける最前線に立つ決意を固めての、新たな挑戦。「使命感といえば偉そうだけど、青臭い思いを大事にしたい」と語る。思いを支えるように、店内には澤田瞳子(とうこ)さんや上田秀人さんら、作家たちが、応援メッセージを寄せた色紙が飾られている。

同店が入るビルの地下には、吹き抜けのオープンスペースがある。作家の新刊披露のサイン会や対談、トークショーなどのイベントを考えている。

「コロナ禍で、宣伝活動を自粛せざるを得ない新人作家も多い。関西の作家らが集まれる場所になれば」と期待をふくらませる。

地元とともに生きる

今村さんは京都府木津川市出身。小学5年の時、書店で見つけた池波正太郎の『真田太平記』を読破したのがきっかけで、海音寺潮五郎、吉川英治、山本周五郎らの歴史小説を読みあさった。「本のない人生は考えられなかった。僕が作家になれたのは、本に出合えたから」と言い切る。

実家の家業であるダンス教室のインストラクターや滋賀県守山市の埋蔵文化財調査員を経験し、平成29年に『火喰鳥(ひくいどり)』でデビュー。わずか4年の間に、『童の神』『じんかん』が直木賞候補となる活躍ぶりだ。

「ヒット作を連発することよりも、息の長い活動で死ぬまで書き続けるのが目標」と語る今村さん。それは書店経営にも通じるという。「地元の人たちとともに生きて、地道につなげていくことが成功なのかなと思う」(横山由紀子)