アルコール依存の末に…元同僚を刺殺した「不条理な男」

松井元被告は事件前日、社長らの勧めもあり、入院治療を受けることになった。だが、酒に酔った状態で現れると、社長が運転する車で病院へ向かう途中にコンビニエンスストアで酒を購入。病院では医師に暴言を吐いて入院を断られ、その後も会社の事務所で暴れたため、ついに解雇されるに至った。

あいまいな犯行動機

亡くなった被害者は、松井元被告と具体的なトラブルを抱えていたわけではなかった。それなのになぜ、被害に遭わなければならなかったのか。

事件直前、松井元被告は会社側と、飲酒トラブルを2度と起こさないという誓約書を交わしており、破った場合は解雇されてもやむを得ないとの内容が記されていた。会社側は病院内外での行動が解雇の要件を満たすと判断したが、元被告は処分に不満を募らせた。

元被告は事件前日、被害者に「不当に誓約書にサインさせられた。回収お願いします」との内容のメールを送信。これに被害者は返信をしなかった。

公判で松井元被告は、解雇処分後に、被害者や会社側と連絡がつかなかったことに腹を立てたという趣旨の内容を述べつつも、「いま考えれば、そこにいた誰かが犠牲になっていたかもしれません」とも話し、最後まで犯行動機はあいまいなままだった。

判決で渡部市郎裁判長は「被害者は解雇とは無関係で、被告とのもめごともなかったことからすると、犯行は身勝手極まりない理不尽なもの」と指摘。アルコール依存症と犯行との直接的な因果関係は認めず、懲役18年(求刑同22年)の実刑が確定した。

周囲の適切な支援と、本人の意思があれば克服できる可能性があるとされるアルコール依存症。勤務先の男性社長は「入院してくれたら治るんじゃないか」と期待していたと公判で明かしたが、思いは届かず、最悪の結末を迎えてしまった。(地主明世)