鑑賞眼

永遠のバンド少年と名曲たち 松本隆50周年記念コンサート

6年ぶりに復活したはっぴいえんど。松本隆(中央)、細野晴臣(左)、鈴木茂=東京都千代田区(提供/PHOTO:CYANDO)
6年ぶりに復活したはっぴいえんど。松本隆(中央)、細野晴臣(左)、鈴木茂=東京都千代田区(提供/PHOTO:CYANDO)

作詞家の松本隆が「作詞活動50周年」を記念し、華やかなコンサートを開いた。今月5、6日の2日間、太田裕美、斉藤由貴らゆかりの歌手が東京の日本武道館(千代田区)に集まり、松本が言葉を紡いだヒット曲、名曲の数々を歌ったのだ。

また、松本は、はっぴいえんどのドラム奏者として自らも出演した。

はっぴいえんどは、昭和45年にデビューした4人組のロックバンド。土臭い米国ロックのうねりと「です」で締めくくる松本の歌詞との組み合わせにより独特の音楽を作った。日本語によるロックの礎を築いたともいわれる。

活動期間は3年ほどと短かったが、松本、細野晴臣(はるおみ=ベース)、鈴木茂(ギター)、大滝詠一(ギター、ボーカル)と、メンバーは、その後の音楽界に大きな影響を与え、伝説のバンドと呼ばれる。

このはっぴいえんどを降り出しに松本は、50年で400組近くのアーティストに2100曲以上の歌詞を提供した。シングルの総売り上げはおよそ5000万枚、ヒットチャート1位を記録した楽曲は50曲以上にのぼる。

5日の公演を見た。歌謡曲を中心に集めた構成で、太田、斉藤、アグネス・チャン、安田成美(なるみ)、大橋純子、イモ欽トリオ、C-C-Bらが、それぞれのヒット曲を披露した。

また、佐藤竹善(ちくぜん)、森口博子、曽我部恵一(そかべ・けいいち)、B’z(ビーズ)、横山剣らが、オリジナルの歌手に代わって松本作品を歌うなどした。

満席だ。やはり中高年が目立った。歌はタイムマシン。だれもが青春時代に戻っていた。客観性をもって語るような公演ではないかもしれない。

主観で言えば、斉藤が印象的だった。濃い青のブラウスに黒いスカートというすっきりした装いで、「初戀(はつこい)」と「卒業」という2大名曲を披露した。

いずれも昨年亡くなった筒美京平の作曲。その旋律と松本の歌詞は、はかなく美しい斉藤の声の特質をかつて最大限に引き出した。ただ、この夜の歌声は堅かった。舞台の大型モニターは、こわばった表情を映し出した。

それでも高音部での独特の声の美しさは失われていなかった。例えば、「初戀」の歌詞「どんな」の「ん」の部分などだ。

松本と筒美による歌には、斉藤の声の特質を歌の中に永遠に閉じ込めてしまうような、なにか特別な「仕掛け」があるのかもしれない。

「初戀」を歌い終わると斉藤は唐突にこう語りだした。「松本さんは、いま、どこかで『俺ってやっぱりすごい』ってほくそえんでいるんでしょうね」

「卒業」の終盤で声を詰まらせたが、斉藤の胸をどのような思いがよぎったのか。

真っ白なドレスで「風の谷のナウシカ」を歌った安田からも緊張が伝わってきたが、こちらは、変わらぬ汚れない声で歌い終わると、にっこりとほほ笑み、踊るような足取りで舞台を去った。

実は、この夜、帰宅してから、自分が平成27年に開かれた「作詞活動45周年」のコンサート「風街レジェンド2015」も見ていたことを思い出した。

6年前のその公演が、来月22日にブルーレイで発売されるという。当時の出演者リストを見て驚いた。斉藤も安田も山下久美子も早見優も出ていたではないか。だが、青春の日々に耳にした歌は、いつでも、何度でも感動をくれるようだ。

一方、本人たちに代わって歌った25歳の武藤彩未、22歳の鈴木瑛美子という若い歌手の存在も強い印象を残した。

鈴木は、薬師丸ひろ子の「Woma 〝Wの悲劇〟より」と松田聖子の「瞳はダイアモンド」の2曲を歌った。大した度胸だと思った。どちらも松任谷由実が呉田軽穂(くれだ・かるほ)の名義で作った名曲中の名曲。観客のだれもが、本人の歌で聴きたかったはずだ。

だが、鈴木は、お構いなしだ。歌を自分のものにし、堂々と聴かせた。名曲が次世代に受け継がれた瞬間だった。だからだろう。観客も惜しみない拍手を送った。

トリを務めたのは、もちろん、はっぴいえんど。6年前の45周年以来の〝復活〟だ。大瀧は亡くなって、すでにいないが、鈴木は69歳、細野は74歳、松本は72歳で元気だ。3人を中心に、「花いちもんめ」「12月の雨の日」「風をあつめて」を披露した。

昭和60年に東京の国立競技場(新宿区)で復活したはっぴいえんども見た。あのときは大瀧もいて、やはり、この3曲を演奏したのではなかったか。

松本は55年前、この武道館でビートルズの来日公演を見て、「かっこいいな」とロックバンドにあこがれた。学生時代に細野と出会い、バンドを組んだ。やがて、これが、はっぴいえんどになった。

終演後、舞台で松本が「きょうのために半年間、ドラムを練習した」と明かすと、鈴木は「松本さんと細野さんが奏でるリズムのうねりは最高だ」と絶賛した。細野が、松本に声をかけた。「じゃあ、バンド組もうか?」

風の街に住む永遠のバンド少年たち。次のお祭りは、4年後だろうか?(文化部 石井健)

「松本隆 風街オデッセイ2021」 5日、東京・日本武道館。3時間。

公演評「鑑賞眼」は毎週木曜日正午にアップします。