ビブリオエッセー

届けたい思いをこめて母の歌 「未来のサイズ」俵万智(角川書店)

昨年刊行された万智さんの第六歌集である。『サラダ記念日』や『チョコレート革命』は独身時代のもので恋の歌が多かったが、時を経て、この歌集では母となった日々の思いを詠んでいる。2013年から2020年まで足かけ8年の作品から418首が選ばれた。

「手伝ってくれる息子がいることの幸せ包む餃子の時間」「制服は未来のサイズ入学のどの子もどの子も未来着ている」「生き生きと息子は短歌詠んでおりたとえおかんが俵万智でも」…。子を持つ喜び、子の将来を気遣う母の心情がよく表現されていると思う。

万智さんはまる5年を暮らした石垣島から、息子さんが中学生になるタイミングで宮崎へ転居した。そして「子育てを通して、社会のありようへの関心を深めた」とあとがきに書いている。「下校した子らと一緒に見ておれば大乱闘となる参議院」と国会まで歌の題材になっていた。「大人の学級会」と慨嘆しているのがおもしろい。そしてコロナ禍を、こう詠む。

「感染者二桁に減り良いほうのニュースにカウントされる人たち」「第二波の予感の中に暮らせどもサーフボードを持たぬ人類」…。

万智さんは「今までにない非日常の暮らし。けれどそれさえも、続けばまた日常になってゆく。そこから歌が生まれる」と記す。

私も拙いながら30年間、短歌を詠んできたが万智さんの歌に刺激を受けてきた。日常の何でもない、見逃してしまうようなことを詠むのが実に上手だと思う。そして心に響くのである。だから何度も読み返してしまう。

私は日記を書く気持ちで歌を詠んできたが、万智さんは「短歌は、日記よりも手紙に似ている」と書く。子育てが終わってからは、どんな歌を届けてくれるのだろう。今から楽しみだ。

大阪府富田林市 大西和子(72)

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