静岡県熱海市で7月に発生した大規模土石流災害は10日、犠牲者6人の遺族5人が殺人罪で、被害を拡大させたとされる盛り土のあった土地の現旧所有者を告訴する事態に発展した。発生から4カ月余り。「盛り土さえなければ…」「悔しい。許せない」。遺族の強い憤りと無念さが突き動かした。
土石流で長年暮らしていた熱海市伊豆山を離れ、神奈川県湯河原町に住む小磯洋子さん(71)は「双子のように何でも話していた」という長女の西澤(旧姓・小磯)友紀さん(44)を土石流で亡くした。刑事告訴状の提出後、現在の心境を記者団に吐露した。「娘は帰ってくると思っている。頭では分かっていても気持ちが認めない。認めたらもう立っていられない。死ぬまでこの悲しみと苦しみは続く」
最も心配なのは残された5歳の孫娘だ。難を逃れたが、母親を失った影響は大きく、発災後、笑顔が消えたという。小磯さんによると、孫娘は父親(55)と2人で暮らす覚悟を決めたのか、最近、父親に泣きながらこう伝えた。「野菜も少しずつ食べられるようになって頑張っているから、パパ、頑張っていこう」
平穏な暮らし、最愛の人を一瞬で奪った土石流は「残された家族にも大きな爪痕を残した」と訴える小磯さん。最近は悲しみに暮れるばかりではなく、娘の無念を晴らし、二度と同じような犠牲者を出さないためにも活動しようと心に決め、「被害者の会」に参加した。刑事告訴による責任追及も「私が娘のところにいったとき、『ママはここまでやったんだよ』と報告したいため」と話す。
夫の小川徹さん(71)を土石流で亡くした女性(71)も告訴人に加わった。「夫は盛り土の存在を知らずに流された。県も熱海市もどうして(事前に)知らせてくれなかったのか」と憤り、「何もかもなくなった。命を返してほしい」と叫んだ。
他の告訴人の遺族も「盛り土を続け、放置したのは、いつ崩れてもおかしくない認識があったはずだ」「絶対に人災だ」などと口をそろえた。