脱炭素最前線

②川崎重工 水素発電のリード役担う覚悟実現へ、世界初の専用ガスタービン開発 西村元彦執行役員インタビュー

川崎重工業の水素ガスタービンの発電設備。世界で初めて水素だけで周辺施設に電気と熱を供給した=神戸市中央区(黄金崎元撮影)
川崎重工業の水素ガスタービンの発電設備。世界で初めて水素だけで周辺施設に電気と熱を供給した=神戸市中央区(黄金崎元撮影)

神戸港に浮かぶ人工島「ポートアイランド」で、脱炭素社会の先駆けとなる取り組みが行われている。燃やしても二酸化炭素(CO2)を排出しない水素を燃料に使ったガスタービン発電の実証事業だ。

ガスタービンを開発したのは川崎重工業。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業として、平成27年から大林組などと技術開発を進めている。30年には水素だけで世界で初めて周辺の公共施設に電気と熱を供給した。

川重が開発したガスタービンは1000キロワット級で、工場や地域の電力供給に適したタイプだ。従来の天然ガス用を部分的に改良。コストを抑えるため、水素と天然ガスの混焼にも対応できるようにした。

開発に当たり、最大の課題になったのは大気汚染の原因にもなる窒素酸化物(NOⅹ)の抑制だった。NOⅹは高温で燃焼する際に空気中の窒素と酸素が結びつき発生する。ガスタービンは燃焼器で燃料を燃やして発生する高温高圧のガスでタービンを回転させて発電するが、水素を燃料にすると天然ガスよりも高温になるため、NOxの発生量が増えてしまうのだ。

当初、川重は高温部分に水をスプレー状で噴射してNOⅹを抑えようとしたが、この方式では燃費が悪化する。このため、水を使わずに済むようバーナーの形状を改良。水素を燃焼室に送り込む装置の先端部にシャープペンシルの芯ほどの穴を数百カ所設け、そこから小分けにして噴射する方式を採用した。

神戸空港島にある液化水素荷役基地。オーストラリアから専用船で運んだ液化水素をタンクに貯蔵する=神戸市中央区(黄金崎元撮影)
神戸空港島にある液化水素荷役基地。オーストラリアから専用船で運んだ液化水素をタンクに貯蔵する=神戸市中央区(黄金崎元撮影)

水素の噴射量を抑えることで火炎が小さくなり、空気が高温部分を通る時間を短縮、NOⅹの発生を抑えるようにしたのだ。昨年5月に水を使わずにNOxの発生を抑えた水素ガスタービンの運転に成功。今後は天然ガスとの混焼にも対応できるように開発を進めている。

水素ガスタービンは飛行機のエンジンにも応用できるなど、さまざまな可能性を秘めている。水素戦略本部ソリューション部の足利貢副部長は「海外にも展開し、世界の脱炭素化に貢献したい」と力を込める。

水素社会の実現には水素価格の引き下げが不可欠だ。現在の水素価格は1立方メートル(0度・1気圧の標準状態)当たり100円だが、政府は令和12年に30円、さらに32年には20円とする目標を掲げている。

価格の引き下げには供給量の拡大も鍵を握る。川重は海外から水素を安く大量に調達するため、サプライチェーン(供給網)の構築にも着手。岩谷産業、ENEOSなどとオーストラリアの褐炭から液化水素を製造し、神戸空港島に設けた液化水素の荷役基地まで専用船で運搬、貯蔵する実証実験を進めている。12年頃の商用化を目指している。

川重は水素事業の売上高を12年度に3000億円、22年度に5000億円に引き上げる計画だ。橋本康彦社長は「水素はさまざまな分野で利用拡大が見込まれる。保有技術を生かし、裾野の広い取り組みを行っていく」とし、水素社会の実現を担う覚悟だ。

「液化水素運搬船でゲームチェンジャー」

インタビューに応じる川崎重工業の西村元彦執行役員
インタビューに応じる川崎重工業の西村元彦執行役員

川崎重工業・西村元彦執行役員

脱炭素時代の燃料として水素が脚光を浴びている。水素ガスタービンや液化水素運搬船などで世界をリードする川崎重工業の西村元彦執行役員に、今後の水素事業戦略について話を聞いた。

――昨年12月に政府が2兆円を投じる「グリーン成長戦略」を打ち出したが、事業環境の変化は

「米国でも200兆円、欧州も大型投資する方針が示され、風向きが変わった。欧州も一丁目一番地の使い道が水素といわれている。世界的に水素がなければ、カーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量実質ゼロ)を実現できないというのが共通理解となってきた。実際に問い合わせも増えている」

――水素の製造、運搬・貯蔵、使用に至るまで幅広く事業を展開している

「液化天然ガス(LNG)や天然ガスを扱う経験を生かし、上流(製造)から下流(発電)まで一気通貫で事業展開しており、そこが当社の大きな強みだ。大型タンクを造る会社は世界に3社しかなく、運搬船を造れる企業も4社しかない。水素ガスタービンも世界でしのぎを削っている」

――グローバルでも戦える有望な技術は

「日本国内で水素を自給自足するのはコスト面から難しい。海外から調達する必要があり、船は貴重な存在だ。液化水素運搬船でエネルギー業界のゲームチェンジャーを目指したい。当社の運搬船は世界で唯一運航しており、平成26年に国際海事機関(IMO)に提案し、28年に承認された。船を造るには実質6年かかり、他社よりもかなりリードしている。政府は令和12年に海外から水素の調達量を増やす計画を示しており、事業拡大が見込まれる」

――水素事業の売上高を令和12年度に3000億円、22年度に5000億円に引き上げる計画だ

「ひとついえることは液化水素機や運搬船、タンクなどを大型化しないと目標は達成できない。開発スピードも重要になる」

――水素の利用はどこまで広がるか。価格の引き下げには何が必要か

「シンクタンクは将来的に世界のエネルギーの2割が水素になると試算している。政府も2割を想定している。市場に水素の供給量が増えて、現場の作業効率化が進むとコストも下がっていく。こうした習熟効果を上げる必要もある。過去に光化学スモッグの問題で、火力発電所の燃料が石油から価格の高い天然ガスに転換した。その時は発電所のボリュームが大きく、コストが下がった。そういう形をイメージしている」

――これから日本が水素で優位性を維持するには何が必要か

「(炭素税や排出量取引など二酸化炭素排出に価格をつける)『カーボンプライシング』を早急に導入する必要がある。制度設計の着手と水素の調達を早くした国がトップランナーになれる」

――水素社会の実現に、どんな役割を果たせるか

「一気通貫で事業展開しており、企業間のマッチングも行っている。コーディネーター(調整役)の役割も担い、水素社会の実現をリードしたい」(黄金崎元)