スポーツ茶論

自然体に人々が魅了される 清水満

樋口久子 三菱電機レディスゴルフトーナメントでプレーオフを制し、出迎えた大里桃子(手前)に向かって駆け寄る渋野日向子=埼玉県飯能市の武蔵丘ゴルフコース(撮影・戸加里真司)
樋口久子 三菱電機レディスゴルフトーナメントでプレーオフを制し、出迎えた大里桃子(手前)に向かって駆け寄る渋野日向子=埼玉県飯能市の武蔵丘ゴルフコース(撮影・戸加里真司)

最近、日本の音楽シーンでお気に入りのミュージシャンがいる。藤井風、24歳。昨年1月、自作の「何なんw」でデビューして以来、「もうええわ」「優しさ」「帰ろう」「きらり」などでストリーミング(インターネット上のメディア再生)総数は軽く1億回を超えた。今最も旬なアーティストである。

その独特のアイデンティティー感が半端ではない。岡山生まれで、歌詞に方言がちりばめられている。

「何なんw」を例にとれば…。標準語なら「なんでなにも聞いてくれなかったの?」というフレーズは「なんでなんも聞いてくれんかったん?」。だから「あのときの涙はなんじゃったん?」という歌詞もナルホドとなる。また歌詞の一人称は「ワシ」…。メディアに露出することはまれだが、YouTubeなどでの言葉は岡山弁。飾らない自然体の姿があった。

□   □

2週前、女子ゴルフの樋口久子・三菱電機レディース(埼玉)で優勝した渋野日向子の会見を思い出した。プレーオフで勝利したが、惜しかったのは本戦最終ホール。パー5で2オンさせ、7メートルのイーグルパットをわずかに外した。悔しがるシーンがテレビに映った。こう説明した。

「すっげぇ悔しい。うえって顔、してましたよね。映っちゃ〝おえん〟ものが映ったみたい、ははは…」

〝おえん〟とは岡山弁で「いけない」という意味だという。そういえば2019年、AIG全英女子オープンで樋口久子さん以来、日本人選手として42年ぶりのメジャー大会で歓喜の優勝を果たした翌日の会見の模様がテレビニュースで流れた。その言葉は…。

「(勝利にも)まったく泣かんかった。なんでじゃろ」

〝じゃろ〟は岡山弁独特の語尾。〝なんで〟のイントネーションも、標準語的には「〝なん〟で」と前にアクセントを置くが、「なん〝で〟」と語尾を上げる。昨年夏、医療従事者支援チャリティー・ゴルフマッチで勝みなみとペアを組んだ。渋野がとっさにチーム名を叫んだ。

「『でいところにあるでいこんてーてーてー組』です」

ん? すると笑いながらこう説明してくれた。「岡山弁で『台所にある大根を炊いといて』という意味です。普通じゃつまらん」。郷土愛いっぱい。ファンへの対応もこんな調子で笑顔を忘れない。

□   □

2人は、ともに業界が認める若手実力派である。

YouTubeに投稿した動画でブレークした藤井。1980年代前後の洋楽をベースにした英語のカバー曲だったが、その英語力と絶対音感とピアノのテクニックが群を抜いていた。オリジナル曲もポップ調からバラードまで80年代前後の洋楽を踏襲しながらも、きっちりと現代テイストを入れ込む。世代を超えて受け入れられた。

渋野は海外メジャーを含め、ツアー通算7勝。オフから始めた再現性を高める打法改造も「飛距離は春先より10ヤードは伸びている」。今季のフェアウエーキープ率70・6%、パーオン率72・2%とともに好調で、「日によってブレがあるけど、ショットは理想に近づいている」と進化を肌で感じている。

12月上旬、来季米ツアー参戦への最終予選会出場のため渡米する。同郷の藤井も世界を見据える。1歳年下の渋野に藤井の存在を聞いた。「そんなん、あっちの方がずっと上やけん」と照れた。

藤井と渋野はいつも変わらぬ自然体な姿。人々が魅了されるはずである。