「鬼筆」越後屋のトラ漫遊記

ファンは矢野野球に失望、チームには主力選手の流出情報も

クライマックスシリーズの対巨人戦で選手交代を告げる阪神・矢野監督
クライマックスシリーズの対巨人戦で選手交代を告げる阪神・矢野監督

鉄腕スアレスは巨人に流失危機、正妻梅野はFAで流失危機、最後の4番マルテはソフトバンクに流失危機…。終戦を迎えた阪神は主力選手の流失情報が〝百花繚乱(りょうらん)〟ですが、極めて深刻な重大危機は矢野燿大監督(52)では「もう優勝などできないのではないか」という強烈な失望感が生まれたことです。阪神はクライマックスシリーズのファーストステージで3位・巨人戦(甲子園球場)に2連敗を喫して敗退し、今季が終了しました。シーズン77勝は12球団で一番勝ったのにリーグ優勝を逃し、日本シリーズ出場権も得られず…。なぜ阪神が競り合いに弱いのか-を凝縮させた巨人との2試合は矢野野球の限界を示したものなのでしょうか…。阪神は重大岐路に立たされました。

ファンの心は怒りのマグマ

クライマックスシリーズのファーストステージで巨人に2連敗を喫した瞬間、阪神は無残にも今季を終えました。ゲームセット後、本拠地・甲子園球場の観衆に深々と頭を下げた矢野監督らコーチ陣、そして選手たち…。温かい声もあれば、強烈なヤジも飛び交うなどファンの反応はさまざまでしたが、今季の阪神を見続けてきた人々の思いは底辺では同じだと思います。

「なんでやねん! なんとかならなかったのか!」「これだけ勝ったのに優勝も日本シリーズ出場もないとはどういうことや」「佐藤輝や中野、伊藤将司らルーキーが3人も活躍したのに、なぜ生かせなかったんや」「外国人選手もシーズン当初、他球団は日本に入れないチームも多かった中で、阪神だけは万全だったのになぜなんや⁉」

なぜ?どうして?誰が悪い⁉ もう阪神ファンの心は複雑怪奇、出口のない怒りのマグマが沸騰しているはずです。

そんな気持ちに追い打ちをかけるように終戦直後の阪神ではさらに気分の滅入る情報が〝百花繚乱〟ですね。今季は130試合に出場して打率・225、3本塁打、33打点、東京五輪にも出場して金メダル獲得に貢献した正妻・梅野隆太郎捕手(30)が今季の5月13日に取得した国内フリーエージェント(FA)の権利を行使して今オフ、他球団に移籍するかどうかを熟考中であることが判明しましたね。

13年ドラフト4位で入団し、プロ8シーズンを虎一筋で過ごしてきた梅野ですが、チームやファンに対する愛着も深い一方で、他球団の評価を聞きたい…という気持ちもあるようです。残留か移籍か、今は五分五分なのでしょう。知人にも「本当に悩んでいるんだ」と打ち明けています。熟考の末に手を挙げるならば、大城のリードに疑問符を持ち、小林の打撃のひ弱さに悩む巨人が獲得調査を始めるのでは、とか地元の福岡を本拠地とするソフトバンクが正妻・甲斐の刺激剤として獲得に乗り出すのでは? という情報が入り乱れています。もし巨人移籍となれば、チームの内情をすべて知る梅野がライバル球団にそれらをすべて持ち込む…という笑えない超悲劇⁉となります。

さらに悲劇の序章があります。今季42セーブをマークしたロベルト・スアレス投手(30)の流失危機ですね。スアレスは昨季のオフに球団と2年契約を締結していましたが、2年目の来季の選択権はスアレス自身にあります。なので、スアレスが他球団から破格の条件提示を受け、移籍を決断するならば、阪神はあらがう手立てがないのです。現時点での水面下の情報は大リーグ複数球団が注目しているということですが、一方で阪神球団首脳は「巨人が怖い」と話しています。

巨人は今季、デラロサの不調でシーズン途中からビエイラが抑え役となりましたが、課題の制球難は解消されていません。もし、スアレスが市場に出てくるならば巨人VS阪神のマネーゲームとなるでしょう。阪神球団の首脳は早くもタジタジの様子ですね。もし、スアレスが巨人移籍ならば、来季の阪神はどうすればいいのでしょうか…。目の前が真っ暗になりますね。

そして、ファーストステージの第2戦でも4番を務めたジェフリー・マルテ内野手(30)に対しても、バレンティンやグラシアルらが退団したソフトバンクが狙っている、という情報まで飛び出しています。今季のマルテは128試合に出場して、打率・2578、22本塁打、71打点。選球眼が良く、74四球を獲得しています。出塁率は・367ですね。早打ち傾向の強い外国人選手では出色の数字です。単年契約で、もちろん阪神球団は残留交渉中ですが、巨額資金を持つソフトバンクが本気で獲得に乗り出すならば、極めて危ういでしょうね。

ちょっと、ここまで書くと来季が恐ろしくなりますね。シーズンオフはフロントの〝戦争〟とも言われています。藤原崇起オーナー兼球団社長以下、フロント首脳は敗退のショックに打ちひしがられることなく、来季に向けた戦力整備を着々と前に進めていかなければなりません。さまざまな困難が襲ってきても、それらを凌駕(りょうが)する戦力を整えて、来季2022年も「阪神タイガースは17年ぶりの優勝を目指します」と胸を張れる陣容を整えなければなりません。それが応援してくれるファンの人々への球団の誠意でしょう。

矢野野球にファンは失望感

しかし、ひとつだけ戦力整備だけでは〝埋まらない〟不安があります。それは矢野監督の野球ではもう優勝は無理なのでは? とチームの周辺やファンの人たちが失望感を持ってしまったことに尽きますね。

巨人とのクライマックスシリーズのファーストステージ2試合は矢野野球の限界か? と痛感する出来事が次々と起きました。まず6日の第1戦の五回裏無死一塁、走者にマルテ、打者・糸原の場面です。1ボールからの2球目を巨人の菅野-小林のバッテリーはウエストし、阪神のランエンドヒットを読み切りました。走者のマルテは二塁ベースでタッチアウト。この場面では余程の「確証」がなければ小林はウエストボールを要求できません。どうして外角にボールを外すことができたのか…。球界関係者はこう分析しました。

「直前、小林は一塁の阪神ベンチもほとんど見てないし、三塁側の巨人ベンチも見ていない。つまり巨人ベンチからのサインではなく、阪神ベンチの動きを知ったからでもない。ヒントは一塁走者がマルテということ。日本語が分からないから一塁コーチャーとの間で何らかのサインの確認動作があったのだろう。それを巨人の内野手が小林にサインで送り、小林はボールを外角高めに外させた、と見るな」

シーズン中からマルテは一塁走者に何度もなっています。その時のサイン伝達の方法が巨人にバレていた…というわけです。

そして、第2戦ではお決まりのエラー続出。三回表の無死から、遊撃の中野が三塁寄りの吉川のゴロをはじき、その後の逆転を許すきっかけを作ってしまいました。八回表にも無死から大山が坂本の三塁ゴロをはじきました。これも致命的な4点目となっています。今季もリーグワーストの86失策です。昨季も、2年前もリーグワーストの失策数ですね。それでも守備コーチは交代することもなく、シーズン中の守備練習に目だった改善点はありません。

先に触れたサイン伝達の方法にきめ細かさが足りない-とか、エラーが多い…などは野球の本質が問われる部分ですね。巨人との2試合はまさに矢野野球の〝足りない部分〟が凝縮されてしまったといえるでしょう。それらを改めて見せつけられたチームの周辺やファンの心の中には「もう矢野監督では優勝に届かないのではないか」という疑心暗鬼が芽生えてしまったと思えて仕方がないのです。

終戦後、矢野監督は「負けてしまったので、本当にただただ悔しいという気持ちです」と話し、来季への続投要請を受諾する前提で「明日から来年に向けて、自分として何が足りなかったかをしっかり考えてやっていきたい。まだまだすべての面で足りないので、もっと上のレベルを目指してしっかり練習していきます」と話しました。

果たして周囲が感じた矢野野球への限界感を払拭できるのか。来季も今季のシーズン前と同様に、胸を張って「優勝を目指します」と言えるかどうか…は失望感を吹き飛ばす、新たなエネルギーを指揮官自身が周囲に示せるか否か…ではないでしょうか。1995年の中村勝広監督も、2001年の野村克也監督も、ネガティブな空気感満載の中で新たなシーズンを迎え、惨敗を喫しています。歴史再び…とはならないでいただきたいですね。指揮官は相当な覚悟を持って、2022年に向かわなければなりませんね。

【プロフィル】植村徹也(うえむら・てつや) 1990(平成2)年入社。サンケイスポーツ記者として阪神担当一筋。運動部長、局次長、編集局長、サンスポ特別記者、サンスポ代表補佐を経て産経新聞特別記者。阪神・野村克也監督招聘(しょうへい)、星野仙一監督招聘を連続スクープ。