いきもの語り

絶滅危惧・対馬のチョウを守れ 足立区生物園が貢献

ツシマウラボシシジミの成虫(足立区生物園提供)
ツシマウラボシシジミの成虫(足立区生物園提供)

葉が敷き詰められた容器の中、目をこらしてようやく見つけられる小さなイモムシ。東京都足立区生物園(同区)で飼育されているチョウ「ツシマウラボシシジミ」の幼虫だ。成虫しても羽を広げた大きさがわずか2センチ程度で、国内では長崎県の対馬にしか生息していない。絶滅の危険性が極めて高いとして、環境省が絶滅危惧「1A類」に分類するほど数を減らし、同園では人工的に繁殖させる取り組みを進めている。

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「確立した飼育法がない中で、試行錯誤しながら飼育を続けてきた」。同園に就職して以来、飼育を担当してきた水落渚さん(30)はこう振り返る。

羽の裏に斑点が1つあり、羽を広げると雄は光沢のある青紫色、雌は黒っぽい色をしている。「リズミカルに飛び回り、雄はキラキラと光っているように見える」と水落さん。対馬の山間部などで日常的に姿が見られていたが、10年ほど前から激減。シカの食害が深刻化しており、幼虫のエサの草が食べられて不足したことや、林業の衰退による森林の環境悪化などが原因と考えられている。

国や自治体、研究者らは危機感を強め、地元の環境整備や人工的に繁殖させる方法を検討。同園が大きな温室を保有することなどから平成26年、正式に依頼が舞い込んだ。

同年に就職した水落さんは、早速飼育担当となった。子供の頃から生きものが大好きだったが、イモムシ、毛虫は苦手だった。大学では昆虫を研究する一方、「生きもの好きなのに苦手なものがあるのは良くない」と、あえてガを飼うなどして慣れたという。

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既に数を減らしていたツシマウラボシシジミの幼虫飼育は、他のチョウより比較的簡単ではあったが、守り育てなければならない重圧もあった。

幼虫は孵化(ふか)した直後、ほかの卵を食べてしまう恐れがあるため、1ミリにも満たない卵をピンセットで一つ一つ別々の容器に移す作業が要求される。孵化後は成長の度合いに応じて新芽やつぼみ、花、実を与えていく。成虫は寿命が短く、確実に交尾したか確認する必要もあるため、飼育員が棒の先に雌を止まらせ、雄に近づけていくという「お見合い」も行っている。

交尾が確認できたら容器に移して産卵させ、また卵を1個ずつ分ける作業が始まる。「交配は年に3回やるが、1日中スタッフがつきっきりでやる必要があり、手間がかかる」という。他のチョウにも注意を払わなければならない。

飼育員のこうした努力が実り、足立区生物園では安定的にツシマウラボシシジミを繁殖させることに成功した。同園で育てたチョウを地元に戻す取り組みも進んでおり、対馬市でも幼虫が好む草を新たに植えたり、周囲を柵で囲んでシカから守ったりするなど保護を進めている。

「8年の間に飼育のコツもつかめてきた。いつか対馬で、元通りに飛び交う姿が見られるようになったらいいなと」。そんな未来に思いをはせる。(橋本昌宗)