イラク首相暗殺未遂 不安定な治安浮き彫り 「将来は暗い」の声も

無人機攻撃を受けたイラクのカディミ首相の住居=7日、バグダッド(ロイター)
無人機攻撃を受けたイラクのカディミ首相の住居=7日、バグダッド(ロイター)

【カイロ=佐藤貴生】イラクで起きたカディミ首相の暗殺未遂事件は同国の不安定な情勢を浮き彫りにした。10月のイラク国会総選挙では親イラン勢の議席大幅減が見込まれ、連携する民兵組織は選挙に不正があったとして反発。支持者が大規模な抗議デモを行って治安部隊と衝突したばかりだった。駐留米軍は今年末までに戦闘任務を終了する方針で、治安悪化を懸念する声が強まっている。

事件は7日、首都バグダッドの旧米軍管理区域(グリーンゾーン)にあるカディミ氏の住居で起きた。接近した無人機3機のうち2機は治安部隊により撃墜されたが、残る1機が同氏の住居を攻撃した。避難して無事だったカディミ氏はビデオ声明で姿を見せ、「卑劣な攻撃だ」と非難した。

バグダッドの工具店経営の男性(56)は取材に、「政治や治安が不安定な中で武力による争いが再燃することは許せない。事件はイラクの暗い将来を示している」と話した。

カディミ氏は昨年5月、情報機関トップから首相に就任。イランと米国が勢力争いを展開するなかでイラン寄りだった従来の政府路線を転換し、両国間のバランスを取る政策を進めた。

このため、イランに忠誠を誓うシーア派民兵組織「人民動員隊」(PMF)との関係が悪化し、駐留米軍施設などへのPMFの攻撃も阻止できない状態となっていた。暗殺未遂の背後関係は不明で、事件を非難した米国はイラク側に捜査協力を申し出た。

PMFはイラクで台頭したイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)を米軍とともに掃討。2017年には壊滅状態に追い込み、翌年の国会総選挙(定数329)でPMF直系の「征服連合」が48議席を得て躍進した。

しかし、19年に起きた反政府デモでは影響力浸透を図るイランも非難の対象になり、デモ隊に実弾を発射して鎮圧したとされるPMFへの支持が急落。征服連合も今年10月10日実施の総選挙で15前後まで議席を減らす見通しだ。親イランの住民らは今月5日、票の再集計などを求めてバグダッドで抗議デモを行い、治安部隊との衝突で少なくとも1人が死亡した。

今回選ではシーア派有力指導者サドル師の政治組織が70前後まで議席を積み増し、第1党を維持するもよう。米イランの干渉を拒否するサドル師はカディミ氏と良好な関係にあり、同氏が首相を続投するとの見方も出ている。今後の連立交渉で征服連合が連立与党から外れるようなら、緊張がさらに高まる事態も予想される。

イラクでは今年、ISが自爆テロや警官殺害などを行って再び台頭する動きをみせている。イラク情勢が不安定化すれば中東全域に影響が及びかねない。