ビブリオエッセー

豊かな感情に寄り添う 「マンガでわかる!認知症の人が見ている世界」遠藤英俊監修 川畑智著 マンガ・浅田アーサー(文響社)

できないことは気にしない/できることにもとらわれない/ただていねいに生活する/一日がすぎ、十日たち/今までのことはすっかり忘れても/今、生きることに向き合っているなら/それでいい/かけがえのない今があるから/それでいい

僭越ながら私の詩です。認知症の世界に入り込んだ夫との生活で、自分も迷路に迷い込んでいた頃、新聞でこの本を知り、すぐ書店へ走りました。これほど迅速に行動するなんて、余程窮していたのでしょう。

以前、何度説明しても分からない夫に思わず机をたたいたことがあります。そのとき夫は、「机をたたかないで話してくれ」と言いました。とても穏やかに。私はハッとしたのです。でも気持ちの正体はつかめませんでした。

この本は、実際の現場をよく知る理学療法士の川畑さんが認知症専門医の遠藤さんと、認知症の初歩をやさしく解説し、マンガが理解を助けてくれます。いくつもの症状を認知症の人の目線で解きほぐしてくれます。読後、あの時、私が何を感じたのか、わかりました。夫の心が理解しようと頑張っていたことに私も気づいていたのです。その気持ちが詩になりました。

認知症の「?」をひも解くケーススタディーはとても勉強になります。印象に残ったのは老夫婦が仲良くお茶漬を食べるお話。二人はなんとお茶の代わりに栄養ドリンクをかけていたのです。でも体に悪くはないし、とても幸せそうです。このご夫婦が私の目標になりました。

この本を読んだときから夫の症状も少しずつ変わっていきました。でも、まえがきにあるように、認知症の人は「豊かな感情を持って生きている」。そのことだけは忘れないでいたいと思っています。

大阪府茨木市 スズメ(73)

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