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川本直さん 『ジュリアン・バトラーの真実の生涯』 批評と溶け合う永遠の愛

川本直さん
川本直さん

最近、これだけ濃密で気宇壮大なデビュー小説に出合った記憶はない。文芸評論やノンフィクションを書いてきた著者の、文学への愛と教養が注ぎ込まれた400ページ近い長編小説だ。

「小説が好きで15歳くらいから書いてはいたけれど、『古典に勝るとも劣らないものを』というプレッシャーがすごくて、自分でどんどん没にしていたんですよね。でも、本当に小説を批評するなら小説を丸ごと一冊書かなきゃ、という気持ちがあったんです」

20世紀後半の米国で、女装して街を歩き、挑発的な同性愛小説を書いたジュリアン・バトラー。本書はこの架空の作家の伴侶で、共作者でもあった男性ジョージ・ジョンによる回想録の邦訳―という構造をとる。カポーティ、ゴア・ヴィダルら実在の作家も登場。虚実を取り混ぜながら、裏切りや嫉妬、数々の醜聞にまみれた同性愛者の熱気あふれる20世紀米文学史を描き出す。「女装したり恋愛に無節操な時期があったり。自分の経験も溶かし込んである」

共作の秘密を告白する回想録は、作者とは何か、書くとは何か、という問いを奏でる。オリジナリティー(独創性)信仰を崩すそんな批評精神が、ジュリアンとジョージの切実な恋愛物語と溶け合い、深い余韻を残す。2人の関係は小説という媒体を通して磨かれ、永遠のものとなるからだ。

「古代ギリシャやローマの作品に、今も私たちは泣いたり笑ったり胸を打たれたりする。作品は散逸しない限りは残る。人間が生きて死ぬ、という現実を超えようとして書き手は創作するんだと思うんです。リレー、継承なんですよね」

鬱病を患い、伏せって本を読む生活が長かった。構想から10年がかりで完成させた初の小説で、その文学的資産が躍動している。「共感ばかり求めず、視野を広く持ちたい。野心があってトライして失敗したのなら、それもいいじゃないですか」(河出書房新社・2475円)

(海老沢類)

【プロフィル】川本直(かわもと・なお)

昭和55年、東京都生まれ。平成23年、文芸誌「新潮」に「ゴア・ヴィダル会見記」を発表しデビュー。単著にノンフィクション『「男の娘」たち』がある。