「異才」生かすには 手探りのギフテッド教育

翔和学園の夏期講習。教室内には運動能力を鍛えるためのトレーニング機器などもある(翔和学園提供)
翔和学園の夏期講習。教室内には運動能力を鍛えるためのトレーニング機器などもある(翔和学園提供)

特定分野で突出した才能を持つ「ギフテッド」と呼ばれる子供たちが注目を集めている。同年代に比べて記憶力や語彙力などに優れ、「天才」のイメージをもたれがちだが、感情の起伏が激しく対人関係に困難があったり、発達障害を併せ持っていたりする子供も。いかに才能を伸ばし、支援すればよいのか、各地で試行錯誤が続いている。

「光の屈折」テーマに発表する6歳児

「恐竜が消える実験をしてみました」

8月、愛媛大学(松山市)が主催する「KIDS ACADEMIA」に参加した幼稚園の男児(6)は、オンラインで開かれたサマースクールで、自身の実験結果を発表した。

男児がテーマに選んだのは、本来ならば中学に入ってから理科の授業で学ぶ「光の屈折」。水を入れたコップの中にラミネート加工をしたりナイロン袋に入れたりした恐竜の絵を差し込み、角度を変えながら、絵が見えなくなるのはどのような時で、その原因は何か調べたという。男児は、「(袋などの中に)空気が入っていると絵が消える」と結論づけ、発表を終えた。

発表を聞いた愛媛大教育学部の隅田学教授(科学才能教育)は「論理的な実験計画を立て、きちんと証明できていた」と評価した。

「KIDS ACADEMIA」は、高度な知的・創造的能力や高い意欲を示したり、特定分野に秀でていたりする子供の個性や能力を伸ばす学習プログラムの開発、実践を目指す「ギフテッド教育」を掲げ、平成22年にスタート。幼稚園~小学校低学年の子供を中心に、知的好奇心を満たす体験学習や研究発表を行ってきた。参加者には、科学に関する300ページ以上ある本を読む子供や、「元素の歌」を自作して歌う子供もいたという。

隅田教授は「ギフテッドの子供たちのポテンシャルを伸ばせないのはもったいない。都会だけでなく地方にも能力の高い子供はいる。その受け皿がもっとあるといい」と話す。

東京では、NPO法人が運営するフリースクール「翔和(しょうわ)学園」(東京都中野区)が病院や学校から紹介されたギフテッドの子供たちの支援教育を実施している。在籍する児童の大半は知能の高いギフテッドだが、発達障害などを併せ持つ子も多い。難解な言葉を話す一方、相手の気持ちを察したり、文字を書くことや運動が苦手な子供もいるという。

広報担当の石川大貴さん(43)は「一人の子の中にさまざまな知識と幼い心が同居している。それぞれに最も適した授業内容を考えている」という。

定義さまざま 試行錯誤続く

米国ではギフテッドの認知が進んでいるが、日本ではまだ明確な定義はない。子供たちの飛びぬけた才能を伸ばす支援には、難しさもある。

東京大先端科学技術研究センター(東京都目黒区)は27年度から、「異才発掘プロジェクトROCKET」を実施。突出した能力を持つが学校にはなじめず、不登校になった子供を支援してきた。応募があった2千人以上の中から127人を選抜、サポートしてきたが、昨年度で募集終了を決めたという。

同センターの中邑賢龍(けんりゅう)教授はその理由を、「ユニークな才能を競う場となり、才能が未開花の子供を排除してしまうことにもつながった」とする。参加希望者の中には、同様の取り組みに数多く応募していたり、選ばれることが目標になっていたりする子供もいたという。

今年度からは新事業「LEARN」をスタート。成績や障害、コミュニケーション能力不問の奨学金制度を設け、知的障害や医療的ケアが必要な子供のサポートにまで間口を広げた。

中邑教授は「公教育を大きく変えなくても、面白い取り組みと組み合わせるのも一つの才能教育。個性を発揮して生きられる場を作ることが必要だ」と話した。

世界では、ギフテッドの専門教育プログラムが導入されている国もある。一方、定義はさまざまで、対応にも違いがある。

突出した知能を持つ子供への教育が盛んなのは米国だ。同年齢より高い知能や創造性などを発揮する子供を「ギフテッド」とし、学校が専用プログラムを導入していたり、早期入学や飛び級ができたりする。学校には通わず家庭で学習する「ホームスクーリング」という選択肢もある。

「わからないふりが苦痛」 学校生活で悩みも

日本では具体的なサポートについての議論はされてこなかったが今年1月、中央教育審議会が答申で「個別最適な学び」の重要性を指摘し、特異な才能のある子供の教育について言及。指導や評価のあり方を検討するよう国に求めた。これを受けて文部科学省は有識者会議を設置し、支援に向けた議論をスタート。8~9月、当事者や保護者らを対象にしたアンケートも行った。

約800人が回答したアンケートでは、「ひらがな、カタカナの読みは3歳で理解した」「5歳で地球温暖化を理解し、海面上昇におびえる」「2歳で歌を作り、4歳から絵本を作った」など、特異な才能に関するさまざまなエピソードが寄せられた。一方、「学校で経験した困難」に関する回答では、「教科書はすべて理解していたが周囲に合わせろと叱られ、暇を持て余した」「わからないふりをするのが苦痛」「同じ熱量と知識のある子が周りにいない」など、学校生活でトラブルや悩みを抱える子供が多い実態が浮き彫りになった。

ギフテッドに詳しいどんぐり発達クリニック(東京都)の宮尾益知(ますとも)院長によると、IQ130以上の子供は全体の2%程度いるとみられるという。宮尾院長は、「ギフテッドの子供は周囲と話が合わず、いじめられたり、からかわれたりして、恐怖心を持つこともある」と指摘。「大切なのは、尊敬できる人物と出会い、自信を深める経験を重ねることだ」と話している。(地主明世)