日本語メモ

謦咳に接する

校閲作業に欠かせない産経ハンドブック
校閲作業に欠かせない産経ハンドブック

本紙の校閲をしていると、いかに自分が言葉を知らないか、また中途半端に理解しているかを思い知らされます。筆者は今年7月から本紙の校閲に携わっていますが、新聞記事や本、テレビやネットのニュースなどで日々見聞きする言葉で気になるものがあれば、すぐに辞書を引いたり、校閲作業で参照するハンドブックで調べたりするようにしています。

「謦咳(けいがい)に接する」という言葉があります。最近読んだ本の中に出てきたので、気になって調べてみました。「謦」と「咳」はともに「せき」を表し、「謦咳」は咳払いのことです。「謦咳に接する」は、「尊敬する人の話を身近に聞く、(尊敬する人に)お目にかかる」(新明解国語辞典)という意味です。

ネットを検索すると、「間近で咳払いを聞けるだけで幸せであるという意味から、尊敬する人と直接会ったり、話を聞くことを『謦咳に接する』や『謦咳に触れる』と言うようになった」とする説明もあります。例えば、次のような用例があります。

「大正六年四月、西田幾多郎博士は、東京に来られて、哲学会の公開講演会で『種々の世界』という題で、話をされた。私は一高の生徒としてその講演を聴きに行った。このとき初めて私は西田先生の謦咳に接したのである」(三木清、『西田先生のことども』)

昨年来の新型コロナウイルス禍で、感染拡大防止のため外出自粛を余儀なくされ、人と会う機会がめっきり減ったという人も多いでしょう。学校では授業が対面ではなくリモートで行われるようになったり、入学式や卒業式、運動会などの行事が中止になったりした人も多いと思います。また、新聞社では取材がリモートで行われ、紙面にはパソコンのモニター越しに映る取材対象者の写真が掲載されることもあります。

現在は新型コロナのワクチン接種が広がり、新規感染者数が減少していると伝えられていますが、「ウィズコロナ」の状況は当面続くとみられます。新型コロナ禍がいち早く収束し、以前のように「謦咳に接する」機会がある生活が戻るようになればと切に願います。

(こ)