“半導体企業”となったアップルのキーパーソンが語る開発の舞台裏と、見えてきた「次なる戦略」

高性能な独自チップを搭載した「MacBook Pro」を発表したアップル。いまや“半導体企業”としても存在感を放つようなった同社で独自チップの開発を主導してきた人物が、ハードウェアテクノロジー担当上級副社長のジョニー・スロウジだ。彼が語った開発の舞台裏からは、アップルの次なるステップも浮かび上がってきた──。『WIRED』US版エディター・アット・ラージ(編集主幹)のスティーヴン・レヴィによる考察。

TEXT BY STEVEN LEVY

WIRED(US)

アップルが新型「MacBook Pro」を発表した際の事前収録されたイベントで、アップルのエンジニアと幹部たちは動作の要となるチップ「M1 Pro」と「M1 Max」こそが、これらの新製品の“MVP”であると強調した。いずれも独自チップのM1 Proはトランジスターを340億個、M1 Maxは570億個を搭載しており、新型Macの超高精細なディスプレイと圧倒的なスピード、そしてバッテリー駆動時間の延長に貢献する“エンジン”となっている。

これらのモデルは14年にわたるアップルの戦略の集大成といえる。独自チップを設計・製造するというアップルの大規模な取り組みは、文字通り製品の内部から同社を一変させた。いまやアップルは、インテルやサムスンなどから購入するマイクロプロセッサーを、アップルユーザーのニーズに合わせて最適化された独自チップへと慎重に置き換え始めているのだ。

この取り組みは驚くべき成功を収めている。かつてのアップルは、デザインを強みとする企業であった。いまでもデザインは重視されているが、わたしはアップルを「半導体の会社」であると考えるようになった。

独自チップ開発の鍵を握る男

オンラインでの発表会から数日後、わたしはワールドワイドマーケティング担当上級副社長のグレッグ・ジョズウィアック(通称「ジョズ」)、ハードウェアエンジニアリング担当上級副社長のジョン・ターナス、そしてハードウェアテクノロジー担当上級副社長のジョニー・スロウジと、アップルのチップについてオンレコで話せる貴重な機会を得た。わたしは何年も前から、スロウジと話せないかとアップルに打診していたのだ。

スロウジの肩書きを見ただけではわかりづらいかもしれないが、彼こそがアップルにおけるチップの責任者である。最近でこそアップルのイベントでカメラに映ることもあるが、基本的には世間の注目を避けている。

イスラエル出身のエンジニアであるスロウジは、インテルやIBMを経て2008年にアップルに入社した。初代「iPhone」に搭載されているチップでは要求を満たせないと考えたスティーブ・ジョブズからの命令を遂行するためである。

スロウジの使命は、アップルが独自のチップをつくれるように導くことだった。スロウジは密かにジョナサン・アイヴのあとを継ぎ、「クリエイティブな魔術師」としてアップル製品の基幹技術を開発する上で重要な役割を果しているのではないか──。思わずそう考えてしまうほど、この取り組みはうまくいっている。