選管も案じた2人の「かめいあきこ」

衆院選島根1区の選挙ポスター掲示板。亜紀子を強調した亀井亜紀子氏のポスターの横に、手書きの亀井彰子氏のポスターが並ぶ=松江市
衆院選島根1区の選挙ポスター掲示板。亜紀子を強調した亀井亜紀子氏のポスターの横に、手書きの亀井彰子氏のポスターが並ぶ=松江市

10月31日に投開票された衆院選で、島根1区では名字と名前の読み方が同じ「かめいあきこ」氏が2人立候補した。一人は立憲民主前職の亀井亜紀子氏(56)。もう一方は無所属新人の亀井彰子氏(64)。当初、島根1区は盤石の地盤を持つ自民前職の細田博之氏(77)と亀井亜紀子氏との一騎打ちになるとみられていたが、公示直前に2人目が登場。亀井亜紀子陣営はポスターなどの表記変更も余儀なくされた。県内の選挙管理委員会も案分票の対応に気をもんだ。その結末は…。

「あきこ」から「亜紀子」に

「生まれて初めて同じ名前の人にあいました。ポスターの急な刷り直しなど、みなさんには大変ご協力を頂き感謝しております」

10月30日夜、JR松江駅前で最後の街頭演説を行った亀井亜紀子氏は、こう選挙戦を振り返り、支援者への感謝の言葉を述べた。

また、後援会長の浜田陽一郎氏は「なにとぞ投票用紙には、漢字3文字の『亜紀子』とお書きください」と応援演説を締めくくった。

投票用紙に「かめい」や「あきこ」とだけ書かれれば、選挙管理委員会は「案分票」と判断し、該当する候補者の得票率に応じて振り分けられることが想定された。浜田氏は「前回比例復活した亀井亜紀子には、案分票分のロスも大打撃になる」と心配していた。

亀井亜紀子氏の事務所によると、もう一人の「かめいあきこ」氏の存在を知ったのは、10月12日に開かれた立候補予定者説明会だった。

陣営はもともと氏名を「亀井あきこ」と表記することにしていたが、有権者の混乱と案分票の発生を避けるため、急遽(きゅうきょ)「かめい亜紀子」に変更することを決定。ポスターを新しい表記で刷り直したほか、ツイッターなどのSNS、選挙カーや看板の表記の変更も急ピッチで行った。

担当者は「すでに印刷してあった選挙はがき3万枚以上は、裏表にシールを貼って表記の変更に対応せざるを得なかった。ボランティアの協力を得て、大変な労力を割かれた。公示にぎりぎり間に合った感じだった」という。

街頭を走る選挙カーは通常、名前を連呼することが多いが、陣営は「漢字3文字の亜紀子でございます」と繰り返すなど、もう一人の「あきこ」との差別化を強調しながら街々を巡った。

街頭演説や公式ツイッターなども「アジア」の「亜」「紀子さまの紀子」と漢字で投票用紙に記入するよう説明するなど、政策の訴えだけにとどまらない対応に追われた。

亀井亜紀子氏の最後の訴えでも漢字3文字の「亜紀子」が強調された=10月30日、松江市のJR松江駅前
亀井亜紀子氏の最後の訴えでも漢字3文字の「亜紀子」が強調された=10月30日、松江市のJR松江駅前

もう一人の彰子

公示4日前の10月15日に立候補を表明した亀井彰子氏は、公示日の立候補の届け出も正午過ぎで関係者をやきもきさせ、島根県選管には最終的に氏名を亀の旧字の異体字で届け出した。

個人演説会で、亀井彰子氏は「政府が税金で株価を支えた結果、庶民が富裕層を支えるバカげた構図になっている。あべこべの構図を改めなければ」などと主張。ただ、選挙ポスターは手書きでわずかな掲示板にしか張り出されず、目立った活動も個人演説会を数回開くのみだった。

一方で、「2人のかめいあきこ」が話題になったことで、亀井亜紀子氏にも大きな注目が集まる意外な展開にもつながった。10月24日には、亀井亜紀子氏の公式ツイッターに1日70万件を超えるアクセスが殺到。それまでは1、2万件だったといい、事務所担当者は「島根県の全人口より多いアクセスがあり、全国から注目されている。この関心を票につなげていければ」と意気込んでいた。

しかし、31日の投開票の結果、島根1区は細田氏が9万票余りを獲得して11回目の当選を果たし、6万6847票の亀井亜紀子氏は復活当選もかなわず、亀井彰子氏は4318票だった。

細田氏の陣営幹部は選挙後、「不思議な人が出てきたなと思っただけ。粛々と選挙戦をやっただけ」と話していた。

10月23日に松江市内で開かれた亀井彰子氏の個人演説会。演説を聞きに来た市民の姿はわずかだった
10月23日に松江市内で開かれた亀井彰子氏の個人演説会。演説を聞きに来た市民の姿はわずかだった

案分票数は不明

注目の案分票はどの程度あったのか。県選管は公示前から「案分の基準は明らかにしない」としている。その理由を「読み方が同じ2人の候補者だけに注目がいくと、公平性を欠いてしまう」と説明。開票終了後も「案分票が何票あり、どのように判断したのかは各開票所の管理者の決めることで、お答えする立場にない」とする。

ただ、島根1区内で最大の票田である松江市選管では、案分の発生に備えて事前に「あきこ」「亀井あきこ」「亀井」など複数のパターンを想定し、振り分けるケースを準備した。

開票終了時間も当初より30分延長して想定。票の審査には長年選挙事務に携わってきたベテランを配置した。担当者は「立会人の意見を聞きながら、慎重に案分や疑問票を確定していった」という。

県選管は31日午後10時半を開票終了時間と見込んでいたが、結局、翌午前0時18分にずれこんだ。だた、システムの不具合の影響が大きかったという。

県選管の担当者は「疑問票の判断を慎重に行ったのも無関係ではないが、大きな影響ではなかったようだ。今は大きなトラブルがなく開票作業が終了し、ほっとしている」と胸をなでおろしている。(藤原由梨)