朝晴れエッセー

アナハイムの空へ・11月7日

私は昔からMLBのファンだった。妻は野武士のような野茂英雄選手が好きだったので、大活躍したときは2人で熱狂した。

その後、妻に難病が見つかり、好きな野球の話どころではなくなった。

でも2018年、妻は苦しい抗がん剤治療のさなか、MLBデビューした大谷翔平選手が異国でひたむきに頑張る姿を見て、応援するようになった。

その年の夏には少し体調も戻り「見に行きたいね、大谷クン」と、冗談めいて口にするまでになっていた。

エンゼルスの戦力もすぐ理解した。大谷選手とトラウト選手以外は打てず、投手陣が頼りないことも知って、中継を黙ってみていられない。

「いつも言うてるやん! その球に手ぇだしたらあかんて」と打者に。「あんたら大谷クンに頼りすぎや、シャキッとしいや」と投手に。大谷選手にも容赦ない。「打ってもアウトやと思ったら走らんでええねん。手抜きを覚えなあかんで」

9月には2度目の週間MVP獲得を病床で喜んだが、状態はかなり悪くなってきていた。彼が肘にメスを入れた秋、6回目の手術を受けたが、もう回復しなかった。

そして翌年早々、64歳の妻は急ぎ足で空へかけのぼってしまった。きっと1人でアナハイムに応援に行ったのだろう。

2021年。

彼の異次元の活躍を喜んでいるはずの妻。勇気をもらい、希望を語った妻。

私はTV画面で無意識に探してしまう。スタンドで「お父さん、先に来てるよ」と笑って手を振っているかもと思いながら。


相野正(71) 堺市美原区