首都圏「通勤困難者」なぜ減らない 10月の震度5強でも

地震の影響で入場規制がかかり、長蛇の列ができたJR横浜線の町田駅=10月8日午前7時51分、東京都町田市(寺河内美奈撮影)
地震の影響で入場規制がかかり、長蛇の列ができたJR横浜線の町田駅=10月8日午前7時51分、東京都町田市(寺河内美奈撮影)

首都圏で10月に最大震度5強を観測した地震をめぐり、発災翌朝に通勤を控える動きが鈍かったことが6日、鉄道各社の利用状況のデータで分かった。実際に一部の駅では、構内に入れない利用客であふれる「通勤困難者」が発生。新型コロナウイルス禍でテレワークなどの柔軟な働き方が浸透していることを踏まえ、企業側に非常時を想定した出社のルールづくりを求める声が高まっている。

地震翌日の10月8日朝。入場規制が行われたJR京浜東北線の川口駅(埼玉県川口市)で駅直結のデッキに長蛇の列をつくる通勤客の姿が報道されると、会員制交流サイト(SNS)では「なぜテレワークしないのか」「テレワークできる人はしてほしい」といった声が相次いだ。

JR東日本によると、地震直後に運転を見合わせた多くの路線は8日未明までに復旧したが、線路の点検などのため朝の通勤時間帯も通常より少ない本数での運行が続いた。その影響で、京浜東北線も大宮や浦和などから東京方面に向かう人で混雑し、川口駅の利用客が車両に乗り切れずにあふれ出たとみられる。

他の路線でも同様の混乱がみられ、通勤困難者が多数生じた。神奈川県茅ケ崎市から都内の会社に通う事務職の男性(31)は、東海道線の遅延を避けようと別の路線を使って出勤したところ、普段の倍近い2時間ほどかかり、始業時間に間に合わなかった。

男性は「テレワークをするには前日に必要書類を持ち帰らなければならず、出社せざるを得ない状況だった」と振り返る。

首都圏主要12駅の朝の利用状況をまとめた国土交通省のデータからも、前夜に大地震が発生したにもかかわらず、多くの人が出勤しようとしていた実態が浮かび上がる。コロナ流行前だった昨年2月中旬の平日の利用者数を「100」とした場合、金曜日だった今年10月8日は「72」となり、直前の同4~7日の「76」や「75」と比べ、わずかな減少にとどまっていた。

日本生産性本部生産性総合研究センターの柿岡明上席研究員は「『テレワーク疲れ』で、在宅勤務が可能であっても出社を選ぶ人が増えている時期でもあった」と分析。その上で「テレワークを行うかを決めるのは企業側で、事前のルールなしに、社員個人が出社しないという判断はできない」と指摘する。

大地震後に出勤を求めない企業もある。三井住友海上火災保険には、平成13年に策定した「大規模災害等対応マニュアル」で、震度5強以上の地震が起きた場合、その都道府県に勤務する社員は原則として、発災から48時間以内を自宅待機とする規定がある。

今回の地震翌日もマニュアル通り、ほとんどの社員が自宅で勤務した。災害時、保険会社の業務は増えることが見込まれるが、コロナ禍前から在宅勤務でも対応できるような態勢を整えてきたという。

東京大大学院の広井悠教授(都市防災)は「風水害時の出社ルールがある企業は多いが、地震時はまだ少ない。地震直後は通信障害が起き、翌朝までに社員に連絡が行き渡らない可能性もある。事前に細かく規定するよりは、社員が出社か自宅待機かを柔軟に選べるようなルールが望ましいのではないか」としている。(橘川玲奈、内田優作)