スポーツが未来を変える

「前後左右、東西南北」見極める びわこ成蹊スポーツ大学、大河正明学長

びわこ成蹊スポーツ大学の大河正明学長(大学提供)
びわこ成蹊スポーツ大学の大河正明学長(大学提供)

びわこ成蹊スポーツ大学の新学長に、同大学の副学長でバスケットボール男子、Bリーグの前チェアマン、大河正明氏(63)が就任した。任期途中でチェアマンの職を辞したのが昨年6月。その後、生まれ育った関西に戻って同大学副学長兼大阪成蹊大学スポーツイノベーション研究所所長を務め、社会人向けのスポーツビジネス講座を開講するなどしてきた。大河学長に抱負を聞いた。

--学長に就任するまでの経緯は

大河「チェアマンを辞めることを決めて(その後の人生を)ゆっくり考えていこうと思っていたところに声をかけてもらった。学生、社会人向けに銀行員時代も含めた自分の経験を伝えられたら、そしてスポーツ界の施策について調査、研究みたいなことができたらと思っていた。ありがたい話をいただいた。スポーツ界にはトップにしがみついている人が多い。それを反面教師にして、絶対にそうはならないようにしようと思っていた。次にバトンを渡していくことが、組織を強くする。余人をもって代え難い人がいるのは、組織の弱点そのものだと思う」

--Bリーグに目安がついたこともあるのでは

大河「2015年から関わり、20年ごろまでに3つ成し遂げたいと思っていた。1つはアジアを勝ち抜ける日本代表にすること。リーグの入場者数を2倍近くの年間300万人、事業規模を3倍近くの300億円にするのが2つ目。3つ目が年俸1億円の日本人選手をつくる。東京五輪に出場でき、300億円と1億円プレーヤーは達成した。300万人も手が届くところまできた。それを見据えて19年に『2026年構想』を打ち出した。26年を考えると、どうやっても僕はいない。であれば、次の人にお願いできればと思った」

--今のスポーツ界をどう見ているのか

大河「新型コロナウイルス感染が簡単に収まらず、東京五輪の直前まで、なぜ開催するのかという声があった。スポーツのアンチみたいな人が増えた時期もある。加えて競技者が減っている。はっきり言って、少し逆風ではないか。ただ、スポーツイノベーション研究所で講座を開講してみて、スポーツを支える人の心意気は衰えていないと感じる。スポーツは『する』『みる』『支える』で成り立っていると言われるが、今は『みる』に制限がかかっている。『する』人は減っている。『支える』方の意欲はある。こういう状況で、スポーツ大学として何ができるか。また、少子化が進み、大学進学率もかなり天井にきていることを考えると、大学間の競争も激しくなるのではないか。特にわれわれは私立大学なので、どうやって学生を募集し、4年間で成長してもらい、社会に貢献できる人を輩出できるか(が問われる)」

--びわこ成蹊スポーツ大学のポテンシャルは

大河「現状は1学年400人近くの学生がいて、約8割が競技スポーツを経験している。いわゆる競技継続者。『する』人が減るということは、募集という意味ではなかなか厳しい状況になる。一方で、スポーツとよく似た分野に健康がある。それからIT(情報技術)。スポーツを通して人間が健康になったり、データを分析してチームの強化や戦術につなげたり…。こういう分野で貢献できる人材を育成する大学を目指すのは必要かなと思う。30代のころ、親しくさせていただいたスポーツ用品メーカー、モルテンの先代社長に『世の中が前後左右、東西南北、今どこに向かっているのかをしっかり見ていかないと、いい経営者になれない』と言われた。大学の学長は半分、経営者みたいなところがある。(世の中が)今、どこへ向かっているのかを考えると、トップレベルの競技者を育てる大前提はもちろん大事にしながら、多くの人がスポーツに親しみ、介護の必要がない、医療保険が少しでも減るような社会につなげていくことに、大学も貢献できるのではないか。また、さまざまな業界で、データサイエンスを重視する時代となっている。スポーツを素材に使って勉強するのは、とても相性がいいだろう。仮説を立て、データを見て、読み解く力は、どんな企業に入っても大切。社会のニーズに応える分野を補充し、スポーツ大学としての存在感を示したい」

--女子学生も増やす

大河「今の学生は約8割が男子。五輪の参加選手も男女がほぼ同数となっている中で、女子の競技に力を入れなければいけないと思っている。競技人口の多い競技でいうと、バレーボールやバスケットボール。盛んなサッカー。そういった競技の一流大学になっていくため、しっかりした指導者を招聘(しょうへい)し、選手のスカウティングができる態勢を組む。着手しはじめているので、3、4年以内に実らせたい」

--大学外部との提携はどう考えている

大河「スポーツチームでいうと、サッカーのセレッソ大阪、バスケットボールの滋賀レイクスターズ、そして女子バレーの久光スプリングスと提携した。あとは滋賀県や大津市、高島市などの自治体。中学の部活動をアウトソーシングする話がある。外部移行したときに指導者の数が決定的に足りない。いわゆるヘッドコーチにはなれないかもしれないが、指導者の中にわれわれの大学生が入れないか。それが地域貢献にもつながる。子供たちに教えるのは自分自身がプレーする上でも貴重な経験になる。強いスポーツチーム、行政との連携は欠かせない。さらには、企業と課題解決型学習の面で提携できないか。起業家のベンチャー精神は大切。高校まではどちらかといえば与えられた課題を解決する学習が主体だが、社会人になると、与えられるのを待っていると、ある意味淘汰(とうた)される。そのモードを切り替える4年間が大学。部活動も入れた学びの中で、自ら課題を設定し、やり遂げる力を身につけていくには、企業人に話をしてもらうのが大事ではないかと思っている」

--その上で、どんなビジョンを描いている

大河「大学の強み弱みやスポーツ界、大学の置かれている状況を踏まえた上で、大きなビジョンが2つある。1つはスポーツに本気の大学になること。競技力、教育力、研究力に圧倒的にもっと本気で力を入れていく。2つ目は、日本のスポーツ文化を創造する大学として、するスポーツだけではなく周りにあるビジネスだとかデータサイエンスにも力を入れる。5年ぐらいをかけ、国際通用性のあるスポーツ文化を創造する大学にしたい。山と湖があって環境に恵まれ、野外活動やチームビルディングに使える施設も持っている。学生向けもそうだが、近隣の市民向けの公開講座や、企業向けにアウトドアスポーツカレッジのようなものができないか」

--教職員に望むのは

大河「何のために働くかは人それぞれだと思うが、誰のために働くかが一番重要。プロスポーツの世界なら、スポンサーのためもあるだろうし、行政、自治体のためもあるかもしれないが、やはりファン、サポーター、ブースターのために仕事をする目線は忘れてはいけない。教職員も一番に考えなければならないのは、学生のために働く意識を持つこと。単に甘やかすのではなく、自分の本当の子供、年の離れた兄弟と考え、どう接するか。原点は学生のためになっているかに尽きる。4年間成長して満足度を得て、大学へのロイヤルティーを持って卒業していけるか。社会人として活躍できる学生が育てられたか。学生のためにという気持ちをとにかく持ってほしい。サッカーでたとえるなら、学校の先生は選手。職員の方が、どちらかというとクラブのスタッフ。スタッフがいないと選手はプレーできない。要するに授業も時間割も決められている。だが、学生を満足させるのは、もちろん職員もあるが、先生の授業、部活動の指導が一番。僕はそういう関係だと思っている。だから、選手がどういう戦術でこのチームが戦っているのか、分からないといけない。昔は『野外スポーツのびわこ』だったが、不易流行。軸を大きくぶらさないまでも、少しずつ『前後左右、東西南北』で世の中が変わっている方向にシフトしていくのが大事というのを認識してもらい、一致団結して教職員が仕事できるかが、ある意味、僕の一番の責任かなと思っている」

大河正明(おおかわ・まさあき)1958年5月31日生まれ、京都市出身。京都大学法学部卒業後、三菱銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。2010年にJリーグ入りし、クラブライセンス制度導入などに尽力。15年5月に日本バスケットボール協会専務理事・事務総長となり、同年9月にBリーグチェアマンに就任。20年7月から、びわこ成蹊スポーツ大学副学長兼大阪成蹊大学スポーツイノベーション研究所所長。今年10月にびわこ成蹊スポーツ大学学長に就任した。

スポーツによって未来がどう変わるのかをテーマに、びわこ成蹊スポーツ大学の教員らがリレー形式でコラムを執筆します。毎月第1金曜日予定。