家族がいてもいなくても

(709)美しき山 寄り添う恋人

イラスト・ヨツモトユキ
イラスト・ヨツモトユキ

食堂で昼食を食べながら窓の外を眺めていたら、空は高く、青く、風もない。

ふと思った。

こんな日は、マウントジーンズのゴンドラに乗って紅葉した山を眺めるってどうかなあ、と。

そこはスキー場で、頂上には那須連山を望む展望台があり、どの季節も美しいといわれていた。いわれていたけれど、まだ一度も行ったことがない。

ならばこの機会に、と部屋に戻るなり車のキーをとり、そのまま1人ドライブに出掛けた。

道は知っていた。

お気に入りの「どうぶつ王国」へ行く道をそのまま走っていけば、行きつくはずだった。

到着して、なにも考えずにゴンドラに乗った。が、動き出したとたんに、あっと気が付いた。

実は私は高所恐怖症で、タワーと名のつくものには近づかない、吊(つ)り橋も渡らない、そういう主義でいたのだ。

うっかり乗ったゴンドラは、空中のレールにぶら下がっていて、ガクンとしたり、ゆらゆらしたり。

でも、乗ってしまったからにはしかたがない。椅子の背を鷲摑(わしづか)みにして、一点だけを凝視してなんとか耐えた。周りの紅葉を楽しむ余裕はなかった。

けれど、頂上には茶臼岳を正面に見る展望台があり、自分の部屋の庭で朝に夕に眺めている山々が、眼前に現れたようで感激してしまった。

周りには、初めて見るような木があった。とくに「ダケカンバ」と呼ばれる木、これがすごい。

すでに葉が散ってあらわになった白いごつごつした枝を、何かに摑みかかるような勢いで自在に伸ばしている。

その様子が荒々しくて魅力的で、見飽きることがなかった。

このダケカンバの木と那須で名高いゴヨウツツジの木が、70年前から寄り添って伸びている一対があり、「恋人の木」と命名されていた。

鮮やかな黄色に染まる木と真っ赤に染まるこの2本の木のおかげで、秋の山々の紅葉が一層、美しくなるのだという。

標高1400メートルの頂上は紅葉の時期を過ぎていたが、帰りのゴンドラが通った中腹あたりは紅葉の見頃だった。

登りのゴンドラの衝撃は下りには和らぎ、なんとか紅葉の季節を楽しめた私だった。

それにしても、自分を御し賢く生きる道をだんだん見失いつつあるかなあ、自分が怖いなあ、と思うこの頃だ。(ノンフィクション作家 久田恵)