彩時記

新酒…完成告げる緑の玉~霜月 11月~

老舗蔵元にお目見えした、直径1メートル20センチ近くもある杉玉。鮮やかな色は「新酒ができました」というサインでもある=10月下旬、東京都青梅市の「小澤酒造」(酒巻俊介撮影)
老舗蔵元にお目見えした、直径1メートル20センチ近くもある杉玉。鮮やかな色は「新酒ができました」というサインでもある=10月下旬、東京都青梅市の「小澤酒造」(酒巻俊介撮影)

東京の奥座敷、青梅市。渓谷沿いにある酒蔵の白壁に、緑のくす玉のような杉玉が姿を現した。日本酒に新酒の季節がやってきたことを告げる印だ。

杉玉は「酒(さか)林(ばやし)」とも呼ばれる。毎年、新酒を搾る頃に新しいものと掛け替えられる。

「実は、頼まれてほかの蔵元の分も作っています。ごらんの通り、材料の杉の木には事欠きませんから」

奥多摩の地酒「澤乃井」で知られる老舗蔵元、小澤酒造の23代目当主、小澤幹夫さん(36)が、常緑樹に覆われた山々を指さしながら教えてくれた。

酒造りの象徴である杉玉は、酒の神様を祭る大神(おおみわ)神社(奈良県桜井市)から全国に広まった。ご神体である三輪山に自生する聖なる杉で作られ、酒の神様に感謝をささげたのが起源だ。

杉玉は酒蔵の軒下で時間の経過とともに色を変え、旬の酒を知らせてきた。青々としているときは新酒、薄緑色になったら夏酒、そして茶色く枯れてきた秋口には熟成を深めたひやおろし-。

つまり、昔から色の変化は酒の熟成度合いの目安とされているが、「日当たりがいいせいか意外と早く茶色くなってしまうので、この説に関しては疑問です」と、小澤さんは苦笑しつつ、こう続ける。「でも、食中酒である日本酒が四季折々に食卓の季節感を彩ってきたのは間違いありません」

今年の新酒の出来は上々だという。「上品な酒質に仕上がり、ひとつレベルが高いものができた手応えがあります。いいスタートが切れました」

生まれたばかりのお酒は、何と言っても爽やかな香り、フレッシュな風味が魅力。半面、「アルコールが立っている」「口に含むとチリチリする」といった荒々しさを感じることも多い。それも初物ならではの持ち味といえる。

折しも、全国各地に山海の幸があふれる味覚の秋真っ盛り。日本酒はちょうど、新酒とひやおろしのシーズンが重なる。熟成前の若々しい新酒と、夏を越えて円熟したひやおろしの飲み比べは、この時季にしか味わえない楽しみだ。

「脂の乗ったサンマに深みが増したひやおろし、初物の搾りたてに鍋料理…。季節の食材に季節のお酒を組み合わせるのは、日本特有のぜいたくな楽しみ方だと思います」

(榊聡美)

【旬の和菓子】

カリッ、ポリッ…。サツマイモを油で揚げ、砂糖を絡めた芋けんぴは小気味いい食感が後を引く。

高知県の郷土菓子から、今では全国的なおやつの定番となっている。この時季は、取れたての新芋でつくられた旬の味が楽しめる。

東京・銀座にある高知県のアンテナショップ「まるごと高知」の広報担当、野戸昌希さんによると、けんぴの元祖は、江戸時代からの歴史がある干菓子だという。

「ケンピ(堅干)」は小麦粉に砂糖を加えて練り合わせ、香ばしく焼いた高知の銘菓。その強い歯応えは「日本一かたい菓子」と呼ばれるほどだ。

まるごと高知では、8種類もの芋けんぴがそろう。「近頃は細切りで、軽く塩味が効いたタイプが人気です」と話す野戸さんがあえてすすめるのは、太切りにした昔ながらの味。

川島製菓(同県安芸市)の「川島のいもけんぴ」は、作付けから収穫まで一貫してこだわった地元産のサツマイモを使用してつくられている。

川島製菓の「川島のいもけんぴ」
川島製菓の「川島のいもけんぴ」

「独特の歯応えと、サツマイモ本来の優しい甘味がしっかりと楽しめます。どこか懐かしい素朴な味わいです」

1袋(200グラム入り)638円。