ビブリオエッセー

カッコいい大人がいた 「ロックで独立する方法」忌野清志郎(新潮文庫、太田出版)

大人になるってどういうことだろう。自分はどんな大人になりたいのだろう。子供のころ、カッコいい大人に憧れた。そんな大人の一人が忌野清志郎だ。

中学のとき、テレビのCMを聞いて初めて涙が出た。働くパパたちの真剣な表情のバックに流れた曲は清志郎が歌う「パパの歌」だった。昼間のパパがいかにカッコいい男か、そんな内容だ。悲しい歌じゃないはずなのに歌の力で心が揺さぶられることがあると知った。

この本はロックに生きた清志郎が中学生にも分かる言葉で語りかけてくれる貴重な一冊だ。数々のエピソードの中で一番好きなのは、音楽三昧の清志郎が進学もせずにロックをやり続けるつもりだと知った母が、心配して新聞の人生相談欄へ投稿したという話。この投書で高校の先生の知るところとなり、清志郎の周りの大人たちが真剣に話し合うことに。

ところが先生は「大学に行ったと思って、四年間だけ好きなようにさせてあげたらどうですか?」と言って、母も納得したとのこと。清志郎は、まるで「死んだと思って」みたいでいいなと面白がっている。

親や周囲に反対されても、これでやっていくという気持ちが本物であれば決意がより固まるんじゃないか。今のように大人たちのものわかりがよくなって簡単に理解されちゃったら、自分の将来を考え抜いたりしないんじゃないか。「売れても売れなくてもとにかくロック的な生き方をしたかった」、こんな動機が初志を貫徹できた理由だと清志郎は書く。目指したのは「成功」よりも「独立」だった。

カッコいい大人がいるということは子供にとって幸せなことだ。清志郎は母も高校の先生もカッコいい大人だということを知っていた。

大阪市住之江区 佐竹加織(45)

投稿はペンネーム可。600字程度で住所、氏名、年齢と電話番号を明記し、〒556―8661 産経新聞「ビブリオエッセー」事務局まで。メールはbiblio@sankei.co.jp。題材となる本は流通している書籍に限り、絵本、漫画も含みます。採用の方のみ連絡、原稿は返却しません。二重投稿はお断りします。