現役時代の新庄氏、あの「敬遠サヨナラ打」の真実

巨人戦の延長十二回、敬遠球を痛打し、左前へのサヨナラ打とした新庄氏=平成11年6月12日、甲子園
巨人戦の延長十二回、敬遠球を痛打し、左前へのサヨナラ打とした新庄氏=平成11年6月12日、甲子園

プロ野球日本ハムの監督に、チームOBで阪神や米大リーグでも活躍した新庄剛志氏(49)が就任した。4日の就任記者会見でユニークな発言を連発した新庄氏。現役時代も、かぶり物姿での練習参加やオールスターゲームでのホームスチールなど奇想天外な言動で話題を呼んだ。そうした数々の「新庄伝説」の中で最も有名なのが、阪神時代に放った「敬遠サヨナラ打」だろう。思いつきでやったように思われがちだが、実は周到に準備していた。平成28年7月26日の産経新聞朝刊(大阪本社発行版)に掲載された当時の打撃コーチ、柏原純一氏の証言を紹介する。

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それは11年6月12日、甲子園球場での阪神-巨人戦で起こった。4-4の同点で迎えた延長十二回1死一、三塁。巨人の槙原寛己投手が敬遠しようと投じた遠い外角への緩い球に新庄氏がバットを出すと、打球は広い三遊間を抜いてサヨナラ安打となった。

柏原コーチは巨人との3連戦前の打撃練習で、新庄氏が打撃投手に外角外れのボールを要求しているのを目撃した。


「どうしたの? と聞くと『(9日の)広島戦で敬遠されたので、次、打ちまーす』と言ってきた。宇宙人と言われた新庄だが、投手は敬遠する際にフォークボールやスライダーは投げない。考えてみれば計算し尽くされていると思った」

柏原コーチ自身も現役時代に敬遠球をホームランにした経験を持つだけに、新庄氏に共感する部分はあった。だが実際に打つとなると、当時の野村克也監督の了解を得られるかが問題だった。

そして問題の瞬間。打席の新庄氏が「敬遠球を打ちたい」というサインを、柏原コーチに送ってきた。


「野村監督に『新庄が打ちたいと言ってます』と伝えると、『あの目立ちたがり屋が…』とぼやいた後にゴーサインが出た」

新庄氏は巨人戦の延長十二回、(上から)外角の敬遠球に思い切り踏み込んで痛打し、左前へのサヨナラ打とした=平成11年6月12日、甲子園
新庄氏は巨人戦の延長十二回、(上から)外角の敬遠球に思い切り踏み込んで痛打し、左前へのサヨナラ打とした=平成11年6月12日、甲子園

新庄氏と野村監督の関係は、監督が新庄氏をうまく乗せていた感じだったという。新庄が投手をやりたいと言えばマウンドに上げ、4番を打ちたいと言えば、その通りに起用した。


「新庄がうまいこと野村監督に泳がされていたんじゃないかな。へそ曲がりな性格なのに、ぷーっとすることがなかった」


何も考えず、奔放に選手生活を送ってきたかに見える新庄氏だが、自分なりの考えを持っていたことがよく分かる。新庄氏は最近、自身のインスタグラムで、野村監督に監督就任を報告したとして「大きな空から僕の采配 選手教育を見届けて下さい」(原文のまま)とつづった。「敬遠打ち」を思いついた選手の背中を押し、一方でデータを重視した采配を振る。名将とかつて交わしたコミュニケーションも、これから監督として指揮を執る上での大きな糧になっているはずだ。

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