我流~社会部発

虐待死防げぬ制度の穴 警察・司法主導に切り替えよ

新村桜利斗ちゃんの虐待死事件を受けた記者会見で、冒頭に頭を下げる大阪府摂津市の森山一正市長=9月28日午後、摂津市役所(前川純一郎撮影)
新村桜利斗ちゃんの虐待死事件を受けた記者会見で、冒頭に頭を下げる大阪府摂津市の森山一正市長=9月28日午後、摂津市役所(前川純一郎撮影)

大阪府摂津市のマンションで8月、熱湯を浴び死亡した新村桜利斗(にいむら・おりと)ちゃん=当時(3)。事件では殺人罪で母親の交際相手、松原拓海(たくみ)被告(24)が起訴され、母親(23)も暴行容疑で逮捕された。

大阪府警の捜査では、2人が日常的に虐待していた可能性がある。ただ「あざがある」「このままじゃ殺される」との虐待情報が、市に今年6月までに少なくとも5回寄せられていた。なぜ善意のSOSは、ないがしろにされたのか。

市などによれば、桜利斗ちゃんに目立った傷はなく、市が「信頼関係を築けている」と思っていた母親は「よく転ぶ子」などと説明していた。市と児童相談所は協議の末、緊急性は低いと判断したが、結果的に虐待リスクの認識が甘過ぎた。市は情報を入手後も母親の説明をうのみにし、桜利斗ちゃんに個別面談すらしなかったのだ。一連の対応はずさんだったと言うしかない。

今回の虐待情報は市が主体的に対応しており、大阪府内の児相が受理したすべての虐待情報を警察に伝える「全件共有」の仕組みから外れていた。大阪府警には虐待情報が伝わっておらず、関係機関の連携のあり方も課題として浮かぶ。

事件を受け、府は有識者による検証部会で問題点を調べているが、虐待死は幾度となく繰り返されてきた。今回の事件の検証は大切だが、摂津市だけの特殊なケースと考えてはならない。

児相での勤務経験がある花園大の和田一郎教授(児童福祉論)は「マクロ的な視点でみれば、自治体や児相に能力のある職員を増やせなかった政治の責任」と指摘。その上で児相が乏しい予算や人員の中、通告受理や一時保護など、すべての虐待対応を担っている現状こそが問題だと訴える。

実際、日本は児相の数が少なく、管轄する人口が多過ぎるあまり、細かな対応ができていない。児童虐待では、一つの児相の管轄人口が100万人以上になると死亡事案が増えるとされる。児相1カ所当たりの管轄人口は単純計算で日本の約60万人に対し米英は約30万人。地域差はあるが、摂津市を管轄する児相が約112万人だったように業務過多の児相は少なくない。

相次ぐ虐待死事件を背景に、児相は近年積極的に一時保護を行っている。しかし、子供を保護する施設は不足し、習熟した専門職員の確保もままならない。そもそも、国際的には警察・司法が通告受理や家庭への介入、一時保護の判断などを主導しており、児相や自治体が矢面(やおもて)に立つのは、主要国では日本くらいだ。

国の統計では、昨年度に児相が虐待相談に対応した件数は、過去最多の約20万5千件(速報値)で、児相通告の半数が警察だった。つまり、警察は普段から多くの虐待通報を受け、昼夜問わず現場臨場し、事件の未然防止にあたっている。

この警察力を生かさない手はない。十分な予算と人員は必要だが、警察が通告受理や介入を担い、一時保護の可否は裁判所が判断した上で、児相はその後を支援する-。子供の命を守るには、そうした制度面での抜本的な変革が必要だ。

(社会部 小松大騎)