鑑賞眼

新国立劇場バレエ団「白鳥の湖」際立つ演劇性

「白鳥の湖」第4幕より。中央手前は福岡雄大(左)と米沢唯(鹿摩隆司撮影)
「白鳥の湖」第4幕より。中央手前は福岡雄大(左)と米沢唯(鹿摩隆司撮影)

バレエの代名詞のような「白鳥の湖」だが、このピーター・ライト版は英国らしいバージョンである。演劇性が際立ち、ダンサーの動きから台詞が聞こえてくるよう。吉田都舞踊芸術監督がこのライト版を新制作した事で、ダンサーの表現力も増し、シェークスピア悲劇を見終えたような余韻が残った。

1981年に初演され、英バーミンガム・ロイヤル・バレエ団で継承されてきたライト版。特徴的なのが開幕直後と幕切れだ。舞台は、重苦しい葬列から始まる。喪服姿の宮廷の人々が舞台を横切り、先王の死を表す。通常の「白鳥」にはない場面で、これから始まる悲劇を予感させる。

続く第1幕は、通常と同じく王子(福岡雄大)の誕生日の場面。父王の死で、即位への重圧を感じる王子が祝宴を喜べず、母である王妃(本島美和)から見合いの肖像画を次々と見せられ、不機嫌な表情を見せるのも自然な流れ。衣装・美術(フィリップ・プロウズ)が中世そのものの重厚さで、ダークな色調の衣装に身を包んだ宮廷の人々が王子に寄っていくと、〝世間の圧〟そのもの。照明も薄暗い中、福岡は大勢の中で孤独感を深める王子の内面をよく伝える。

その中で、王子の友人ベンノ(木下嘉人)の献身的振る舞いは健気なほどで、クルティザンヌ(高級娼婦、池田理沙子と飯野萌子)を呼び寄せ、王子の気分を晴らそうとする。ベンノとクルティザンヌらの踊りに、途中から王子も加わるが、池田と飯野は、さりげなく高度な技術を披露しつつ、目線も含め魅惑的空気を醸し出し、それに王子が応じる。要するに通常の「白鳥」のように、唐突に「誰?」という人物が踊り始める場面がなく、どの役にも登場する必然があるのだ。それは第3幕、花嫁候補の王女たちが登場し、ソロで踊って王子にアピールする演出にも表れている。

また時として「白鳥」の王子は、魔法で白鳥に変えられたオデットとオディール(黒鳥)の間で揺れ動く様が、浅薄に見える事がある。だが、このライト版は王子の心理描写が丁寧で、王子にも共感できるのがいい。孤独な王子が森で出会ったオデット(米沢唯)にひかれ、宮廷に戻ると王位継承と花嫁選びのプレッシャーのなか、舞踏会でオデットそっくりな黒鳥のオディール(米沢の2役)に愛を誓ってしまうのだ。