観光復活 カギは「地域連携」 各地で取り組み続々

短時間のお座敷遊びが個人客の需要を広げている(有馬温泉観光協会提供)
短時間のお座敷遊びが個人客の需要を広げている(有馬温泉観光協会提供)

旅行会社、宿泊施設、飲食店、自治体などが一体となって、地域の観光需要を発掘しようという試みが広がっている。市民から穴場の観光スポット情報などを募って発信したり、ホテルが近隣飲食店の自慢メニューを紹介したり。コロナ禍で注目が高まる「近場」の旅行から盛り上げようと、地域の関係者が組織の枠組みを超えた連携を加速させている。

市民が発掘

「(大阪府東部の)飯盛山からの景色の魅力を伝えたい」

「駅前で開かれていた夜市は、観光客にも楽しんでもらえそうだ」

10月、大阪府大東市でJTBなどが開いた「ローカル魅力発掘発信ワークショップ」。公募で集まった市民らが、JTBのウェブサイトで発信を目指す地元の観光資源について意見を交わしていた。

参加した同市の会社員、中川昌洋さん(54)は「だんじりの魅力を若い世代に伝えたい」。同市の主婦、長澤千浪さん(55)は「地元を案外知らないことに気付いた。原点に戻る気持ちで市の魅力を見つけたい」と意気込んだ。

JTBは昨秋から、北海道網走市や栃木県栃木市など全国9市と組み、市民らが発掘した地域の魅力を同社のふるさと納税サイト「ふるぽ」で発信する取り組みをスタート。関西では大東市が参画した。

これまで開催したワークショップでは参加者から115件の観光情報などが寄せられ、このうち4市で計5件がサイトに掲載された。JTBは「地域ならではの魅力は世界中にも広がる」と、将来は訪日外国人客(インバウンド)の呼び込みにつなげる可能性も見据える。

コロナ禍の中、感染リスクを避ける「マイクロツーリズム」と呼ばれる近距離観光にも活路を見いだしており、その需要掘り起こしにもつながるとみている。JTBはプロジェクトを通じ、全国から国内観光客の呼び込みを狙う。

JTBと大阪府大東市などが観光スポット発信に向けて住民向けに開いたワークショップ=10月
JTBと大阪府大東市などが観光スポット発信に向けて住民向けに開いたワークショップ=10月

自治体にもメリットが期待できる。大東市は「地域の魅力が上がれば、人口の流出に歯止めをかけられる」と話す。

芸妓の挑戦

地域内の観光業者による連携は、温泉街にも広がっている。

関西有数の温泉街、神戸市の有馬温泉。団体客と宴会の減少を受け、旅館と芸妓が新たな挑戦を始めた。通常2時間ほどの芸妓の芸を30分と大幅に短縮して披露する試みだ。プログラムの共同開発はこれまでに例がないという。

長時間のプログラムは団体客の宴会で楽しまれてきた側面もあるが、一気に消失。コロナ禍でも一定数見込める個人客に対応しようとの試みだ。まずはビデオ会議アプリ「Zoom(ズーム)」で配信するサービスを導入し、その後、旅館やホテル内でも始めた。家族連れやカップルなど新たな客層の掘り起こしにつながっているという。

「コロナがなければ、変えようという気持ちもここまで高まらなかった」。有馬温泉観光協会(神戸市)の金井一篤さんは明かす。地域の伝統や文化を強く打ち出した新曲も投入し、芸の中身も地域密着を図るという。

無料ガイド

一方、コロナ前までインバウンドが中心だった都市部の観光は、集客で苦戦している。とりわけインバウンドが主要顧客だった宿泊特化型のホテルには喫緊の課題とされる。「レストランや滞在を楽しめる付帯施設が少ない。地域にある飲食店などとの連携が欠かせなくなっている」(ホテル業界関係者)。

そんな中、4月に開業したホテル「OMO5京都三条by星野リゾート」(京都市中京区)は、従業員が無料で周辺をガイドするサービスを展開する。定番スポットだけでなく「徒歩圏内を深堀りする」(同ホテル)。

風呂敷や数珠、匂い袋などの老舗店と連携し、店舗を案内して店や商品にまつわる歴史などを説明。ホテルのロビーには、従業員や宿泊客が見つけた穴場の観光スポットなども紹介し、地域を楽しんでもらう。

OMO5京都三条by星野リゾートの散歩ツアー。老舗の小物店などで買い物も楽しめる=京都市中京区(星野リゾート提供)
OMO5京都三条by星野リゾートの散歩ツアー。老舗の小物店などで買い物も楽しめる=京都市中京区(星野リゾート提供)

宿泊特化型ホテル「ホテルエルシエント大阪」(大阪市北区)は「曽根崎ソーシャルグッド」と銘打ち、立地する大阪有数の繁華街、曽根崎エリアの飲食店などと連携する活動を始めた。

第1弾として今夏、エリアに多い「昭和レトロ」な喫茶店をホテル内で紹介した。また、周辺のライブハウスのチケット半券を提示すれば、格安で泊まれるプランも10月に投入。関西で活躍する芸術家のアート作品を、ホテル内や近隣の飲食店に展示するイベントも11月にも開く予定だ。

同ホテルは「今後は観光客と地域をつなぐハブ拠点としての役割をホテルが担わなければならない」と意気込む。

近隣にある観光名所、露天神社(お初天神)も地域の盛り上げに期待する。吉澤克規宮司は同ホテルの取り組みに対し「神社としてもできる限り協力し、曽根崎エリアを盛り上げる旗振り役として活躍してほしい」と話す。

地域の特色 共同で売り込む

宿泊施設経営者らでつくる全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(全旅連)の青年部が、2~3月に加盟施設270軒を対象に実施したアンケートによると、今後始めたい新たな取り組みとして44・4%と最も多かったのは「地域の他施設などと連携した集客やプラン開発など」だった。

全旅連青年部は「宿だけを目的に来るお客さまが増えており、地域の魅力を伝えていくことが必要となっている。地元客が増える中で、地域の観光資源発掘が求められており、宿と地域が協業する必要が高まっている」と話す。

加盟施設の中では地元スーパーとの提携や、地域での体験プランの窓口を一括化するといった取り組みが始まっているという。

ホテルジャーナリストの井村日登美さんは「近年はインバウンドを狙って地域外から参入した観光業者ばかりがもうかるといったケースも散見された。観光客の急増で生活環境が乱されるとの住民の不満も高まっていた」と指摘。「観光はそもそも、その地域の特色を売り込むもの。地域と連携し、地元に広くお金が落ちるようにしなければならない。住民生活と共存する視点も欠かせない」と話している。(田村慶子)