ビブリオエッセー

時を超えて、今を生きる 「スキップ」北村薫(新潮文庫)

私たちはみんな子供の時代を過ごし、青春を体験し、喜びや哀しみを重ねて、中年になっていく。もし、そんな当たり前の時の経過がかなわなかったら?

昭和四十年代の初め、女子高二年の一ノ瀬真理子は青春真っ盛り。明日は文化祭、他校の男子も来るフォークダンスが雨天中止になっても私たちは二年生だから来年があるね、と親友と話をして、帰宅後、横になった。

目覚めたら二十五年後、時代は平成だった。美也子という、自分と同じ十七歳の「娘」の部屋にいて、一ノ瀬真理子は桜木真理子になっていた。「ふざけてるの? ――お母さん」と美也子。鏡の中に、心は十七歳のまま母になった四十二歳の真理子がいた。

真理子は高校の国語教師になっていた。見ず知らずのおじさんが「夫」だという。同じ高校の教師だった。到底受け入れがたい状況に最初は絶望し、運命を恨んだ。しかし、周囲に疑われず勤めるため、夫と娘の協力のもと、この世界で生きるため奮闘していく。

冒頭、昭和四十年代の高校生活の描写には少し読み疲れたが、不条理な運命に振り回される主人公の心に寄り添うための必要な部分だと後でわかった。読者は真理子とともに青春を生き、そしていきなり中年になり、戸惑うのだ。

今朝まで一緒にいたはずの両親はすでに亡く、恋の経験もないのに夫と娘がいる。あまりにつらい運命だけれど真理子は父母の言葉を胸に顔を上げて今を生きる。「だってお前は、意地っ張りの真理子だから」。喪失感を抱えながらもしっかりと前を向く。

小説で出会った新たなマイヒロインである。つらい時や自分を甘やかしそうになった時、真理子を思い出し、心の背筋を伸ばしたい。

兵庫県宝塚市 今津雅代(50)

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