法廷から

「贖罪の絵」描く色鉛筆使わせて 死刑囚の訴え

奥本章寛死刑囚が色鉛筆で描いた桜の木(小冊子「波紋ー奥本章寛と歩んだ十年のキセキ」より)
奥本章寛死刑囚が色鉛筆で描いた桜の木(小冊子「波紋ー奥本章寛と歩んだ十年のキセキ」より)

殺人事件の死刑囚が絵を描くのに使う色鉛筆を使用禁止とされたのは「表現の自由」の侵害に当たる-。こう訴えて法務省訓令の取り消しを求めた訴訟が、東京地裁で開かれている。死刑囚側は、色鉛筆で描いた絵画の販売収益を遺族への弁償に充てており「贖罪(しょくざい)のために必要不可欠」と主張。国は争う姿勢を見せており、裁判所の判断が注目される。

販売益を被害弁償に

提訴したのは、平成22年3月に宮崎県の自宅で義母、妻、長男の家族3人を殺害したとする殺人罪などに問われ、現在は福岡拘置所に収容されている奥本章寛死刑囚(33)。

公判で弁護側は「義母から陰湿ないじめを受け、度重なる理不尽な暴言を浴びせられた」などと情状を求めたが、1審宮崎地裁は「家庭生活に鬱憤を募らせ、自由になりたいと思った動機に酌量の余地はない」として死刑を言い渡し、26年に最高裁で確定した。

代理人の黒原智宏弁護士によると、奥本死刑囚は公判中から「集中でき、心が落ち着く」との理由で色鉛筆画を描き始めた。最初に描いたのは桜の木。当初は植物が多かったが、次第に動物や故郷の風景を、最近では子供を囲む家族の絵を描くようになった。

奥本章寛死刑囚が色鉛筆で描いた作品(小冊子「波紋ー奥本章寛と歩んだ十年のキセキ」より)
奥本章寛死刑囚が色鉛筆で描いた作品(小冊子「波紋ー奥本章寛と歩んだ十年のキセキ」より)

黒原弁護士は、絵を販売して収益を遺族への被害弁償に充てることを提案。絵葉書や絵を収録した小冊子を作成し販売、200万円超を送り、遺族も受け取っているという。

「(描くときは)被害者のことを思い浮かべていることが多く、一緒に経験したかったことを考えている。(自分が)奪ったもの、(自分が家族の命を)奪ったことを感じられる」。奥本死刑囚は、こう話しているという。

訓令の改正で

一方、訴状によると、法務省は令和2年10月に訓令を改正。この中で、死刑囚が色鉛筆や鉛筆削りを購入し、自室で使うことが禁じられ、今年2月から施行された。

死刑囚の拘置所内での処遇は、どのようなものを購入・使用できるかが法律などで細かく決まっている。訓令は、法律に基づき職務を行う行政機関の職員に対し、上級官庁が発する「命令」に当たる。

同省は、訓令改正の経緯や理由について「訴訟にかかわることなので、コメントを差し控える」としている。が、黒原弁護士は「鉛筆削りの刃を用いて自傷行為に出た人がいたためではないか」と推測する。

法務省が現在、ホームページで公開している訓令には、受刑者以外の被収容者(確定死刑囚ら)が自費で購入できる文房具として、シャープペンシルやボールペンが記載されている。同省によると、カラーシャープペンシルも含まれるというが、奥本死刑囚は現在、「(色鉛筆でなければ)濃淡が出せない」と、絵を描くのをやめているという。

「色鉛筆で絵を描くことは反省を深め、償いを実現するために必要不可欠。これまでと同じように、また色鉛筆で絵を描きたい」。黒原弁護士は奥本死刑囚の意向を受けて今年7月、国を相手取り訓令の取り消しなどを求める訴訟を提訴する手続きを取った。

これに対し、10月に行われた第1回口頭弁論で国側は「訓令は行政組織内の内部的な行為。直接国民に向けられたものではなく、取り消しなどの処分の対象にならない」などと主張、争う姿勢を示した。

今回の訴訟について、一橋大の本庄武教授(刑事法)は「更生のための環境に置かれている受刑者と、執行を待つ身である死刑囚では、立場が異なる。死刑囚の私物は本来、必要なものは原則使えるようにすべきだ」とした上で、「職員の負担などを考慮して、使える物品をリスト化する場合でも、私物の使用に制約をかけるならば相当な合理性が必要だ」と指摘する。(塔野岡剛)