バイデン政権、多国間外交復帰印象づけ 「環境で対中接近」拒む

【グラスゴー(英北部)=塩原永久】バイデン米大統領は2日、訪欧日程を終えた。「気候危機」へ果断な対策をとるよう国際会議で訴え、米国の多国間外交復帰を印象づけた。かつては温暖化対策で米中接近を予想する向きもあったが、バイデン政権は人権や台湾の問題で中国に融和せず、両国関係は冷え込んだままだ。ただ、温暖化対策で自国の産業保護を進めようとする内向き志向も目立ち、冷めた目も向けられている。

バイデン氏は2日、国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)の首脳日程を終え、開催地グラスゴーで記者会見した。

「海外首脳と多くを成し遂げた」と強調し、米国肝煎りの「メタン排出3割削減」の推進運動に、100カ国超が賛同したと説明。「米国が存在感を示した」と誇らしげに語った。

先月30、31両日のローマでの20カ国・地域首脳会議(G20サミット)とCOP26の首脳日程は、中国の習近平国家主席、ロシアのプーチン大統領が不在となった。トランプ前米大統領が離脱した地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」に復帰したバイデン氏は国際世論の喚起に注力し、COP26では温暖化対策に消極的だったインドやブラジルが対策強化を表明した。

バイデン氏は、習氏らが一連の会議に対面で出席しなかったのは「大きな過ちだ」と批判した。ただ、対中関係を「紛争ではなく競争」と位置づけ、対立を煽(あお)る図式を避けた。両国間の偶発的な武力衝突を「心配していない」とも話した。

1月のバイデン政権の発足当初は、世界最大の温室効果ガス排出国、中国の協力を得るため、トランプ前政権が発動した対中制裁を緩和するのではないかとの観測が浮かんだ。

だが、米政権幹部は中国新疆(しんきょう)ウイグル自治区での少数民族抑圧を糾弾し続けた。中国が威嚇する台湾を米国が守る「責任がある」とバイデン氏自ら語った。

排出削減目標を引き上げようとしない中国に、米政権内で対処方針をめぐる路線対立が起きたとされる。

米紙ワシントン・ポストによると、ケリー大統領特使(気候変動問題担当)が今夏、バイデン氏と習氏の直接対話を糸口に関係改善を探るべきだと主張。これに対しサリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は「時期尚早だ」と反対した。9月に入ると中国は環境分野で対米協力する条件として、米国が「行動で関係改善すべきだ」(王毅国務委員兼外相)と圧力緩和を迫るようになった。

それでも、米政権は「気候変動は(取引の)道具ではない」(ケリー氏)として軟化しなかった。

「気候対策は組合労働者の雇用と賃金を増やす」

そんなフレーズが口癖となったバイデン氏の温暖化対策には暗部がある。化石燃料から再生可能エネルギーへ移行させる産業振興策に、自国企業優遇の施策が紛れ込んでいる。

政権が進める電気自動車(EV)普及の税額控除案は米系メーカーに有利とされ、1日までに日本など25カ国の駐米大使が「自国優遇の国際協定違反」と見直しを求める書簡を公表した。世界を先導する「米国の復権」は道半ばといえる。

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