ビブリオエッセー

71歳と20歳。心の距離感 「ひとり日和(びより)」青山七恵(河出文庫)

青山七恵さんを知るきっかけは、5年ほど前に読んだ新聞の文化欄のエッセーだった。以来、「素敵な感性の作家だ」と思い、たちまちファンになった。

20歳の主人公、知寿は5歳のとき両親が離婚し、高校教師の母に育てられたひとり娘だ。母の勤める高校と中国の高校との教師の交換プログラムで、母が中国に行くことになり、知寿はひとり残される。頼ったのが遠縁にあたる東京住まいの吟子さんだった。71歳と20歳、ふたりの同居生活が始まる。

都会に住む知寿の孤独を深刻な筆致ではなく、軽い都会的な味わいで描く。小説のトーンは知寿の成長譚だ。全編に知寿の成長が綴られているが、ストーリーはやや平板で、特に劇的な展開はない。ただ、それを退屈させずに読ませる著者の筆力は凄い。

なにより吟子さんが素敵だ。夫に先立たれた初老の女性だが、同年代の男友達と楽しく交際している。知寿とは適度な距離感を保ちつつ、温かく見つめている。

知寿はいわゆるフリーターでバイト先を2度辞め、男友達が2人現れ、どちらにもフラれる。月日は流れ、ようやく正社員の職を得た。会社の社員寮に転居するため、吟子さんの家を出ることになった。

引っ越しの前日、知寿はこう尋ねる。「吟子さん。外の世界って、厳しいんだろうね。あたしなんか、すぐ落ちこぼれちゃうんだろうね」。吟子さんは「世界に外も中もないのよ。この世はひとつしかないでしょ」と励ます。

いいシーンだ。転居後のある日、知寿は通りかかった電車の窓から吟子さんの家を見た。しかし「そこにある生活の匂いや手触りを、わたしはもう親しく感じられなかった」と心情の変化を描く。知寿は一歩を踏み出した。

鹿児島市 玉利啓介(64)

投稿はペンネーム可。600字程度で住所、氏名、年齢と電話番号を明記し、〒556―8661 産経新聞「ビブリオエッセー」事務局まで。メールはbiblio@sankei.co.jp。題材となる本は流通している書籍に限り、絵本、漫画も含みます。採用の方のみ連絡、原稿は返却しません。二重投稿はお断りします。