主張

京王線乗客刺傷 避難経路確保の再確認を

選挙特番の最中に飛び込んできたニュース映像は異様なものだった。

東京都調布市内を走行中だった京王線特急車内で男が突然、無差別に乗客を刃物で襲撃し、液体をまいて放火した。70代の男性が刺されて重体となったほか、男女16人が負傷した。

容疑者は映画「ジョーカー」の主役に仮装した24歳の男で、「人を殺して死刑になりたかった」などと身勝手な犯行動機を供述しているという。パニックに陥る車内の様子は、乗客がスマートフォンで撮影した映像として拡散されていた。

赤い炎や逃げ惑う乗客、犯行後にたばこを吸う容疑者の姿などが報道番組に取り上げられたが、ひと際、異様に映ったのは、国領駅に停車した車両の窓からホームドアを乗り越えて脱出する乗客らの姿だった。ハイヒールを履いた女性や年配の乗客の姿もあった。

車内では「ドアを開けろ」の怒号も響いたという。誰もが思う疑問だったろう。例えば男が刃物による凶行を続けていれば、まかれた液体がガソリンなどであったとしたら、避難の遅れは惨事をさらに深刻化させた可能性もある。

京王電鉄によれば、特急電車は停止位置の約2メートル手前で停車したため、ホームとの隙間への転落を防止するために乗務員らが車両のドアやホームドアを開けない判断をした。手前で停車したのは、乗客が非常用のドアコックを使用したためだという。

窓からの脱出は乗客らの自主的判断だった。互いに手を貸し女性らを先に逃がす冷静さもみられたが、容疑者とともに車内に閉じ込められたともいえる。乗務員らのドア開閉の判断には、将来に教訓を残すためにも検証が必要だ。

もちろん、悪いのは容疑者の男である。国土交通省は全国の鉄道事業者に警戒強化を要請する通知を出した。鉄道各社は防犯カメラの増設や駅員の巡回強化などの対策を進めているが、こうした通り魔的犯行を抑止することは極めて難しい。

まず避難経路の確保が最重要課題である。事件はさまざまな状況を誘発する。乗客の非常用ドアコック使用が運転を妨げ、乗客の安全を守るためのホームドアが脱出の邪魔になるケースも想定しなくてはならない。あらゆる状況への対応を平時に確認し、徹底しておくことは防災の基本でもある。