松葉ガニを守り育てる「カニ牧場」の30年

鳥取県産の松葉ガニ。トップブランドの「五輝星」は昨年、1匹1万~50万円の値がついた(鳥取県提供)
鳥取県産の松葉ガニ。トップブランドの「五輝星」は昨年、1匹1万~50万円の値がついた(鳥取県提供)

鳥取県の冬の味覚「松葉ガニ」(ズワイガニ)漁が11月6日、解禁される。福井では越前ガニ、京都では間人(たいざ)ガニなどと水揚げ地によって名前を変える日本海の特産品。カニの漁獲量日本一を誇る鳥取県では30年前の平成3年度、ズワイガニの水揚げ量が約309トンにまで落ち込んだが、現在ではその3倍の900トン程度にまで回復し、資源枯渇の危機を脱した。背景には、漁期などの自主規制とともにカニを守り育てる「カニ牧場」の取り組みがあった。

鳥取県沖の「カニ牧場」に沈められた魚礁(鳥取県立とっとり賀露かにっこ館提供)
鳥取県沖の「カニ牧場」に沈められた魚礁(鳥取県立とっとり賀露かにっこ館提供)

面積は東京ドーム2340個分

「蟹取(かにとり)県」。鳥取県は平成29年から本格的にこの呼称を使い、全国に松葉ガニ産地としての魅力を発信している。

蟹取県を名乗る理由として5つの日本一を掲げる。ベニズワイガニを含めたカニの「水揚げ量」「消費量」「新鮮活きガニの出荷」「カニにかける思い」、そして「カニの牧場面積」が、その5つ。

カニ牧場は鳥取県沖の日本海、深さ約250メートルの海域5カ所に設けられており、面積は1万1320ヘクタール、東京ドーム2340個分の広さになる。牧場といっても、柵があるわけでもエサがまかれているわけでもない。高さ、横幅、奥行き各3・5メートルの立方体コンクリート魚礁を海底に沈めたカニの保護区だ。

鳥取県の松葉ガニ漁は、水揚げの統計がある昭和27年度以降では38年度の5280トンを最高に、平成3年度には最高時の6%弱にとどまる309トンにまで減少した。乱獲による資源枯渇が原因で、この状況に危機感を覚えた県は翌4年度にカニ牧場建設に着手し、12年度まで9年間継続した。

県としての取り組みはここでいったん終わったが、19年度からは、国が「フロンティア漁場整備事業」として、日本海の排他的経済水域(EEZ)で同様の施策を実施。こちらは大きいもので5メートルの立方体魚礁を約200~500メートルの海域に沈めており現在も続いている。

白波が立つ日本海。この沖合で11月6日に松葉ガニ漁が解禁される
白波が立つ日本海。この沖合で11月6日に松葉ガニ漁が解禁される

最少漁獲量の3倍で安定

松葉ガニは、計12回の脱皮を繰り返し9~10年で成体となり、寿命は約15年とされる。

カニ牧場の効果について、県水産試験場海洋資源室主任研究員の野々村卓美さんは「メスガニの産卵や稚ガニの成育が守られる」と指摘する。実際、試験場が平成20年度に行ったカニ牧場3千ヘクタールでの生息調査では、推計で甲幅7~8センチのメスガニ40万匹以上を確認し、計画時に見込んだ6・3万匹を上回ったという。

漁獲量の回復はこうした増殖に加え、漁業者らによる自主的な資源管理の徹底が大きい。県内の松葉ガニ漁は水深の深い場所で網をひく沖合底びき網漁で、近年は県東部を中心に24隻が漁を行っている。漁期は11月6日から翌年3月20日(メスは12月31日、脱皮半年以内のオスは翌年2月末)までに自主規制し、漁獲量も漁業者らで組織する「日本海ズワイガニ特別委員会」で設定、漁獲可能な甲幅や操業禁止水域も決めている。

こうした取り組みの結果、鳥取県産の松葉ガニの漁獲量は16年度に1587トンにまで回復。ここ5年間は28年度937トン、29年度824トン、30年度899トン、令和元年度806トン、2年度731トンと安定している。

「カニ牧場」は鳥取県沖の日本海5カ所に設置された(赤い四角、鳥取県立とっとり賀露かにっこ館提供)
「カニ牧場」は鳥取県沖の日本海5カ所に設置された(赤い四角、鳥取県立とっとり賀露かにっこ館提供)

「五輝星」1匹500万円

資源の維持とともに鳥取県や漁業者らが取り組んでいるのが、ブランド化の推進だ。平成27年度には「五輝星(いつきぼし)」の認定制度をスタート。甲幅13・5センチ以上、販売時点の重さが1・2キロ以上、脚が全部そろっているなど5つの基準を満たした松葉ガニにこの称号を与えている。昨シーズンは103匹を認定し、1匹1万円から50万円で販売された。令和元年度には1匹500万円の高値がつく極上品が水揚げされ、話題となった。

歴史をさかのぼると、江戸時代の天明2(1782)年に当時の鳥取藩主が津山藩主に贈ったとされるなど、古くから贈答品としても珍重された松葉ガニ。漁業者らは近年、五輝星に限らず市場に出荷されるカニの質向上に力を入れており、その分漁獲高が上昇している。

今シーズン、鳥取県に割り当てられた漁獲可能量は850トン。間近に迫った漁解禁に向け、漁業者は準備に余念がない。(松田則章)

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