広島国際映画祭 手掛けるのは地元出身の美術監督

広島国際映画祭への思いを語る部谷京子さん=広島市中区
広島国際映画祭への思いを語る部谷京子さん=広島市中区

「広島国際映画祭」が11月19日からの3日間、広島市内の映画館など3会場で開催される。新型コロナウイルス禍の影響も続くが、国内外の約20作品を上映予定だ。映画祭の代表を務めるのは、映画「Shall we ダンス?」などを手がけた美術監督、部谷(へや)京子さん。広島でロケされた作品、原爆や平和にかかわる作品も上映される予定で、「広島に寄り添う映画祭でありたい」と話している。

原点となる作品

広島市出身の部谷さんだが、かつては「(広島のことを)知ろうとしていなかった」という。

武蔵野美術大時代、円谷プロダクションでの美術助手のアルバイトをきっかけに美術監督の道に。日本アカデミー賞最優秀美術賞を受賞した「Shall we ダンス?」「それでもボクはやってない」など、55作品以上の映画を手がけてきたが、ある作品をきっかけに広島と向き合うことになった。

被爆をめぐる3世代の女性たちを描いた平成14年制作の映画「鏡の女たち」(吉田喜重監督、岡田茉莉子さん出演)の台本を読んで驚いた。自分の知らない広島が描かれており「もっと広島について考えてみたい」という思いで、スタッフとして作品に加わった。

原爆ドームが水面に映り込む元安川の川岸で行われたこの作品の上映イベント。上映中に元安川を流れる灯籠を見て「自分の中にあった何かが突き動かされた」という。

映画祭では「平和」と「原爆」にかかわる映画を上映し続けている。広島を大切にする映画祭にしたいからだ。

話題作品を上映

今回の映画祭のオープニングを飾るのは、原爆開発に翻弄される若者たちを描いた黒崎博監督の「映画 太陽の子」。部谷さんが「絶対に上映したい」と昨年から懇願していた作品だ。

広島国際映画祭のオープニング作品「映画 太陽の子」のワンシーン(Ⓒ2021 ELEVEN ARTS STUDIOS / 「太陽の子」フィルムパートナーズ)
広島国際映画祭のオープニング作品「映画 太陽の子」のワンシーン(Ⓒ2021 ELEVEN ARTS STUDIOS / 「太陽の子」フィルムパートナーズ)

石井裕也監督が韓国で撮影した池松壮亮さん、オダギリジョーさんら出演の「アジアの天使」、藤井道人監督がメガホンを取った綾野剛さん主演の「ヤクザと家族 The Family」、白石和彌監督が手がけた松坂桃李さん主演の「孤狼の血 LEVEL2」など、話題作は多い。

なかでも「孤狼の血~」はコロナ下で広島ロケを最初に受け入れた作品。受け入れに尽力した広島フィルム・コミッションの西崎智子さんは「映画を撮れるという喜びを爆発させるような現場だった」と話す。

このほか、カンヌ国際映画祭4冠に輝いた濱口竜介監督の「ドライブ・マイ・カー」の上映も決まった。

「孤狼の血 LEVEL2」の撮影風景。マスクを着けて撮影に臨む白石和彌監督(Ⓒ2021「孤狼の血 LEVEL2」製作委員会)
「孤狼の血 LEVEL2」の撮影風景。マスクを着けて撮影に臨む白石和彌監督(Ⓒ2021「孤狼の血 LEVEL2」製作委員会)

映画の力は必要

映画祭の魅力の一つでああるティーチインには、藤井道人監督▽黒崎博監督▽石井裕也監督▽白石和彌監督▽宮川博至監督▽森井勇佑監督▽片渕須直監督が登場する。

また、濱口竜介監督や「カメラを止めるな!」で知られる上田慎一郎監督、綾野剛さんらもゲストで登壇予定だ。「ヤクザと家族~」で美術監督を務めた部谷さんは「最後にちょっとした希望の光が見えるような、優しい家族を描いた作品。綾野さんが広島で何を語ってくれるのか、今からワクワクしている」と話す。

藤井監督や「この世界の片隅に」の片渕監督ら映画祭を大切に思ってくれる監督や俳優も増えた。部谷さんは「何年もかけて綿密に調べ上げて描き切った『この世界の片隅に』は広島にとって本当の意味で宝物。被爆の実相だけでなく、未来につながる光を見せてくれた。それを作った方ですから」と話す。

昨年はコロナの影響で海外ゲストを取りやめ、上映作品や客席を大幅に縮小して開催した。

広島国際映画祭の特別招待作品「アジアの天使」のワンシーン(Ⓒ2021 The Asian Angel Film Partners)
広島国際映画祭の特別招待作品「アジアの天使」のワンシーン(Ⓒ2021 The Asian Angel Film Partners)

今年も海外ゲストを招待できず、オールナイトで上映予定だったドラマも配信延期の余波で中止となった。映画祭のプログラミングには大きく影響したが、部谷さんは「そういう状況であればあるほど、映画の力は絶対に必要なもの」と強調する。

「映画祭は私の一部。命ある限り続けたい」という部谷さん。「クリエーターの創作の原点となるような場所になれたらいいと思う。そして、広島の街と一体化して、広島のみなさんに寄り添う映画祭でありたい」と話している。(嶋田知加子)

会場はNTTクレドホール(広島市中区)▽広島市映像文化ライブラリー(同)▽横川シネマ(広島市西区)。チケットは一般1日券(1800円)など。プログラムやチケットの詳細は広島国際映画祭ウェブサイトで。プログラムは上映作品、開映時間などが変更になる場合もある。

  • ■ライバルはカンヌ 広島で来夏開く国際フェスの中身

    来年夏、広島に新たな音楽とメディアのフェスティバルが誕生する。8月の1カ月間にわたり行われる「ひろしま国際平和文化祭」。実行委員会は、世界へ羽ばたく人材を育成し、世界最高水準の音楽コンクールや国際映画祭などへの登竜門となるフェスティバルを作り上げたいという。

  • ■カンヌ脚本賞の濱口作品も ロケ地・広島の磁力

    広島が映画のロケ地として熱い視線を浴びている。広島フィルム・コミッションが撮影支援した今夏公開予定の映画は4本。作家、村上春樹さんの短編小説を映画化し、第74回カンヌ国際映画祭で脚本賞など4冠に輝いた濱口竜介監督の「ドライブ・マイ・カー」はそのひとつだ。

  • ■オバマの抱擁、見守った妻の76年

    現職のアメリカ大統領として平成28年5月、初めて被爆地、広島を訪れたオバマ元米大統領。被爆した米兵捕虜の研究をしてきた森重昭さん(84)との抱擁は、歴史的な場面として高校の教科書にも掲載された。かたわらで見守っていた森さんの妻、佳代子さん(78)は夫を支えながら、自らも被爆者として平和を願う活動を続ける一人だ。コンサートでレクイエムを歌い続けてきた。