書評

『メディアの未来』ジャック・アタリ著、林昌宏訳 GAFA独裁 避けるには

『メディアの未来』ジャック・アタリ著、林昌宏訳
『メディアの未来』ジャック・アタリ著、林昌宏訳

《メディアはメッセージである》というカナダの文明批評家、マーシャル・マクルーハンの箴言(しんげん)を思い起こしている。人々はメディアが媒介するコンテンツ(内容)にばかり注意を向け、メディア(媒体)そのものが持つ特性(メッセージ)に対して無頓着だった。これに対してマクルーハンはこんな言葉で警告を発していたのである。1964年のことだ。メディアは、その存在自体がメッセージを発し、それは個人や社会を大きく変えてしまう。その影響力はコンテンツよりもはるかに大きいといえる。

新聞、ラジオ、テレビといったオールド・メディアは、マクルーハンの箴言の真意に気付かぬまま、コンテンツに拘泥し、新たに登場したメディア、つまりインターネットの普及によって生まれたさまざまな情報サービス―その筆頭はGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)である―が持つ破壊的な影響力をあまりにも軽く見ていた。自分たちは充実したコンテンツをつくっていれば安泰だと。それが失敗の始まりだった。国境を持たぬGAFAは、いまや国家をも凌駕(りょうが)する巨大な権力に成長した。

2021年、民主主義国家のオールド・メディアはかつてのような影響力を失い、企業として存亡の機にひんしているところも多い。近い将来、オールド・メディアが担ってきたジャーナリズムはどうなってしまうのか。言うまでもなくジャーナリズムの衰退は民主主義の衰退に直結する。ジョージ・オーウェルがディストピア小説『1984』で描いた世界がわれわれを待ち受けているのかもしれない。そこではGAFAが「ビッグ・ブラザー」(独裁者)として君臨しているだろう。その危険にいち早く気づいたのは皮肉にも独裁国家である中国だ。共産党は中国版GAFAであるBATX(バイドゥ、アリババ、テンセント、シャオミ)の統制を始めた。

『1984』的世界を回避するために、世界の民主主義国家が手を取り合って今すぐに取りかかるべき課題とは何か。アタリはメディアの歴史を丁寧にひもとき、われわれが議論し考えるためのプラットホームを本書で提供してくれる。(プレジデント社・3630円)

評・桑原聡(文化部)