「鬼筆」越後屋のトラ漫遊記

矢野阪神、来季の重要課題は「4番打者問題」

本塁打を放った阪神・佐藤輝明(横浜スタジアム)
本塁打を放った阪神・佐藤輝明(横浜スタジアム)

笑うなかれ! 来季の4番は佐藤輝明内野手(22)に! それぐらいの気構えで打撃を改良して欲しいですね。阪神は26日の中日戦(甲子園球場)に0対4で敗れ、同日にヤクルトが勝ったため16年ぶりのリーグ優勝は雲散霧消しました。ヤクルトが2015年以来、6年ぶりの優勝を飾り、虎党の夢はついえたのです。最終成績は77勝56敗10分け。リーグで一番勝ったのに、それでも優勝できない…。来季への様々な課題が残った中で、重要課題は「4番打者問題」です。ヤクルトの4番・村上宗隆内野手(21)が39本塁打、112打点を記録。巨人の4番・岡本和真内野手(25)も39本塁打、113打点。矢野阪神は来季も「4番・大山」ですか-。自前の4番を育てるならば佐藤輝が最有力候補でしょう。

またも中日に阻まれる

最後の最後に、またしても中日に足をすくわれました。0対4の完敗…。その瞬間、先にDeNAに勝っていたヤクルトの6年ぶりのリーグ優勝が決まりましたね。険しい表情の矢野監督やコーチ陣、選手達は必死に前を向こうとしていたのでしょう。下を向く選手が少なかったのが印象的でした。

このコラムでも書きましたが、中日にはいつも痛いところで負けてしまいますね。1973年のペナントレースで、阪神はあと1勝でいい状況で10月20日の中日戦(中日球場)に敗れ、続く22日のシーズン最終戦でも巨人(甲子園球場)に0対9と大敗を喫して優勝を逃しました。1992年も、今季と同じくヤクルトと熾烈な優勝争いを繰り広げたシーズン終盤、阪神は9月30日、10月1日の中日戦に連敗。さらに首位ヤクルトと1ゲーム差だった10月9日にも中日の〝嫌味〟とも感じた細切れ継投の前に打線が沈黙。0対1で敗退し、ヤクルトに翌日の直接対決(甲子園球場)で敗れて、V逸となりました。

「あの時(92年)のことはよく覚えている。中日戦でオマリーが先制2ランを打ったのに、その後に土砂降りの雨が降ってノーゲーム。再試合は負けた。最後の試合も中日は投手を3イニングづつで交代させる、まるで〝虫干し〟みたいなリレーをしてきて、完封負け。いつも、いつも中日には痛いところでやられる」とは球団OBの言葉です。

92年V逸のオフを教訓に

ただ、いくら悔やんでも悲しがっても、終わった試合は返ってきません。チームもファンも現実を受け止めるしかありません。阪神はまたしても優勝を逃したのです。最終成績は77勝56敗10分け。優勝したヤクルトは141試合の段階で73勝50敗18分け。今季は勝率で優勝を争います。なので阪神は勝率・579、ヤクルトは・593(2試合残し)。リーグで一番勝ったのに阪神は頂点に立てなかたのです。

どうして77勝したのに勝てなかったのか…。「なんでや阪神!」は、かつての関西のスポーツ紙の一面見出しでよく使われていた表現ですが、今まさに「なんでや阪神!」ですよね。そして、その「なんでや!」を阪神は来季に向けて分析し、改善しなければなりませんね。この分析と方法論を間違うと、チームはとんでもない〝ドツボ〟にハマります。

またしても92年のV逸のことを振り返りますが、優勝したヤクルトは69勝61敗1分けの勝率・531。巨人と同率2位に終わった阪神は67勝63敗2分けの勝率・515でした。このシーズンは左腕・仲田と湯舟、右腕の中込、野田、葛西ら先発陣が安定。抑えは鉄仮面・田村でした。打線はオマリー、パチョレック、八木を中心に亀山、新庄らが成長し、投手陣を中心とする守り重視の野球で勝ち進んでいきました。

しかし、あと少しで優勝を逃すと阪神球団は先発ローテーションの一角、野田をオリックスに放出し、松永浩美内野手を獲得したのです。充実してきた投手陣の一角を崩し、得点能力を上げるために松永を獲得したのですが、これが大失敗に終わります。オリックスに移籍した野田はエースに成長する一方、松永はわずか1シーズンでフリーエージェント宣言し、ダイエー(現ソフトバンク)に移籍してしまいました。その後、長い低迷に陥った阪神の〝悪夢の扉〟でしたね。

話を現在に戻しますが、あの92年オフのチーム造りを矢野阪神は大きな教訓としなければなりません。確かに後2~3勝すれば今季は優勝でした。しかし、来季はまた0勝からスタートして、80勝を目指すのですから、今季の「足りない部分」だけを埋めようとする補強は極めて慎重に行うべきです。今季の布陣で77勝したのですから、チームとしての長所や特長を絶対に殺さない方向性が求められると思いますね。

4番打者には誰がふさわしい

そうした中で、絶対的な課題は「4番問題」です。今シーズンは4番・大山でスタートしました。最後の143試合目の4番はマルテで、大山は5番でした。今季の大山の成績は129試合に出場して打率・260、21本塁打の71打点。得点圏打率・205でした。

優勝したヤクルトには村上、巨人には岡本という不動の4番がいます。それぞれ39本塁打。打点は村上が112で岡本は113。得点圏打率は村上が・320で岡本は・283でした。やはり、ここぞという場面で打つ、タイムリーを放つ、打点を稼ぐ…。頼りになる4番とそうでもない4番の大きな格差。これは阪神ファンなら誰もが痛感する部分でしょう。

では、来季も「4番・大山構想」で臨むのか。大多数の阪神ファンは首をひねるでしょう。ならば最終戦で4番に入ったマルテ? これも不動の4番ではなくて、「消去法の4番」ではないでしょうか。他にいないから「マルテ」では、やはり弱いですね。

ならば大物新外国人選手に4番を託す? これは過去、何度も大失敗してますね。ロサリオ、ボーア…嫌味になるからこれ以上は書きません(すでに嫌味⁉)けど、未知数の〝大物新外国人選手〟は極めてリスキーです。ならば他球団から主砲をトレードで獲得するのがいい? それこそ92年の〝悪夢の扉〟の再現ですね。野手との交換で主力投手を渡すことは避けなければなりません。

では、どうする? 笑うことなかれ、現有戦力で最も4番の風格、打撃のスケールを持ち合わせている選手は佐藤輝明内野手しかいないでしょう。ルーキーイヤーの今季は126試合に出場して打率・238、24本塁打の64打点。得点圏打率・245です。シーズン途中で全く打てなくなり、59打席連続ノーヒットも記録し、三振数は12球団ダントツの173個でした。

それでも佐藤輝は今年がルーキーだったのです。経験不足から来る配球の読みの浅さや、相手の攻略法を跳ね返す術を持ち合わせていなかったことは仕方のないことでしょう。しかし、今季1シーズンを経験したことで、来季に向けて様々な引き出しが生まれているはずです。もっと配球が読めるようになって、相手バッテリーと駆け引きができるようになる、ボール球を振らない選球眼を磨く。持ち前のパワーとスピードが打席の中でもっと、もっと生かせるようになるならば、「自前の4番」の筆頭候補であることは間違いないと思います。

佐藤輝自身も「来季は4番」ぐらいの高い目標で臨んでもらいたいですし、教えるコーチ陣も「自前の4番を育てるんだ」という気概を持って欲しいですね。 今季、優勝を果たしたオリックスを見てください。中嶋監督の大ヒットは2軍でくすぶっていた〝ラオウ〟杉本を4番に抜擢(ばってき)したことです。134試合に出場して打率・301、リーグトップの32本塁打、83打点をマークしました。信じて起用し、4番を任せられる技術を身に着けさせた。杉本自身も意気に感じて頑張りましたね。

阪神も「佐藤輝ではアカン」ではなく「佐藤輝しかいない」と思い、チーム全体で佐藤輝を4番に育て上げて欲しいものです。彼が村上や岡本と肩を並べる4番に成長するなら、来季の「阪神タイガース80勝」は見えてきます。既にチームの大黒柱は佐藤輝なのですよ。

(次回は11月9日の予定です。これからは火曜日掲載に変わります)

【プロフィル】植村徹也(うえむら・てつや) 1990(平成2)年入社。サンケイスポーツ記者として阪神担当一筋。運動部長、局次長、編集局長、サンスポ特別記者、サンスポ代表補佐を経て産経新聞特別記者。阪神・野村克也監督招聘(しょうへい)、星野仙一監督招聘を連続スクープ。