新聞に喝!

隣国に付き従う歪な「報道の自由」 元東京大学史料編纂所教授・酒井信彦

ノーベル平和賞受賞が決まったフィリピンのジャーナリスト、マリア・レッサ氏=8日、マニラ(ロイター)
ノーベル平和賞受賞が決まったフィリピンのジャーナリスト、マリア・レッサ氏=8日、マニラ(ロイター)

8日、今年のノーベル平和賞が、フィリピンのマリア・レッサ氏とロシアのドミトリー・ムラトフ氏に贈られることが発表された。ジャーナリストに対する授賞は、1935年以来というから、90年近く前の話である。この事実には、大きな疑問を持った。言論の自由が平和にとって大切だと言うなら、もっと多くの受賞者がこの間にあってもいいはずである。

そして今回はフィリピンとロシアからであるが、2人が受賞したのは、両国にそれだけ自由があるからであり、さらに深刻に自由なき国が存在する。それは9日の朝日新聞朝刊2面に出ている、国境なき記者団による「世界報道自由度ランキング」で、フィリピン・ロシアより下位の中国である。ノルウェー・ノーベル委員会は、平和賞授与がノルウェーとの国際問題に発展した中国の作家・人権活動家、劉暁波(りゅう・ぎょうは)氏の前例(2010年受賞)に懲りて、中国の報復を恐れているのか。

ところでこのランキングの日本の順位はあまりにも異常である。日本は67位で、韓国の42位、アメリカの44位のはるかに下なのは、明らかに作為的におとしめられている。以前ははるかに上位にあったものが、近年急速に下落したようだ。国境なき記者団が、日本の実情を知っているとは考えられないから、記者団側に情報を提供している、つまり入れ知恵をしている日本人がいるはずである。

私がこのように判断するのは、慰安婦問題の前例があるからである。国連の人権委員会で、慰安婦は性奴隷だと日本人がロビー活動し、それが勧告に盛り込まれて世界に流布して、日本の名誉と尊厳は著しく傷つけられた。報道の自由度ランキングにも、まったく同じメカニズムが働いているのではないか。

9日の朝日社説では、「為政者が事実を語らず、不都合な報道を封じる社会に、健全な民主主義はありえない。それは、日本を含む各国の指導者が改めて認識すべきである」というが、虚弱な日本の国家権力に、報道を封じる力など存在しない。日本の民主主義を破壊しているのは一部の主流メディア自身である。

社説はさらに、「もちろん一方で、報道機関が権力に付き従い、国全体が誤った道に進んだ歴史の反省も忘れてはなるまい」とも言う。しかしこの現象は決して過去のことではなく、現在のことである。しかも日本の一部の主流報道機関が付き従っているのは、外国の国家権力である。それは、世界最悪レベルの言論報道弾圧を行う中華人民共和国の国家権力に他ならない。

【プロフィル】酒井信彦

さかい・のぶひこ 昭和18年、川崎市生まれ。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東京大学史料編纂(へんさん)所で『大日本史料』の編纂に従事。