一服どうぞ 裏千家前家元 千玄室

 消えぬテロ 虚しき20年

千玄室さん
千玄室さん

春に催される茶席の床に「花紅柳緑」の軸が掛けられているのをご覧(らん)になった方は多いと思う。禅語としては「我(われ)々(われ)の目に映るあらゆるもののあり方が、一つ残らず真実の姿であること」を意味するといわれる。

薛(せつ)稷(しょく)の漢詩にもこの語句を見いだすことができる。任地に赴く友への餞(はなむけ)を詠み、最後に花は紅に柳は緑に色づくなかで、また再会の宴を開きたいと結ばれている。

このように家族や友に送られ赴任されたであろう24名の日本人も、ニューヨークであの米中枢同時テロの犠牲になられた。

全体では、犠牲者は2977名になる。

2001年9月11日の朝、2機の飛行機が世界貿易センター(WTC)へ、他にも2機、合計4機のハイジャックされた飛行機によって米国各地で自爆テロが試みられた。

即刻、米国は報復手段に出た。武に対し武を以(もっ)ての報復である。首謀者とされるウサマ・ビンラーディンが殺害されたと報じられたのは11年5月のことであったが、アフガニスタンでは20年にわたって戦闘が続いたのはご承知の通りであろう。そして米国が完全撤収に入った途端、イスラム原理主義勢力タリバンが隙を突くように首都カブールを制圧し政権奪回を果たした。本当にこの20年に及ぶ戦いは何だったのだろう。私は政治学者でもないのでその意義をどうこう言うつもりはないが、虚(むな)しさだけが残る。千利休居士は文武両道、武に対して文を持つことの大切さを説いているが、指導者の誰もがそこに考えが及ばなかったのであろうか。

タリバンは、バーミヤン遺跡をはじめとする貴重な歴史遺産を次々に破壊してしまっている。国連教育科学文化機関(ユネスコ)に関わる身としては、再生できない歴史上の建造物の映像に悲しみを感じた。また、タリバンは女子の教育の場を奪っている。ユネスコの大使会議で「どうか、自分が受けられた教育の機会を他の女子にも与えてほしい」と訴えていた少女の面影が瞼(まぶた)の裏にうかんでくる。

信仰のためのジハードといわれる自爆テロを、太平洋戦争中の特攻隊と同様にみるむきがある。私は学徒動員で海軍に入り、海軍飛行予備学生として特攻隊員に志願した。出撃命令を受けぬまま終戦を迎えたが、数多くの戦友を失った者として、声を大にして申し上げたい。

テロと戦争は断じて別のものである。戦争とは勝つか負けるかであり、自国のため、ひいては家族のために戦うのである。テロとは宣戦布告した戦争ではない、故に停戦も休戦もまして終戦もなく無意味に延々と続く。戦争は国益をかけたものであり、平和条約を締結するなどしてしっかりと終戦を宣言することができる。確かに朝鮮戦争はいまだに終戦を迎えられずにいるが、休戦協定が結ばれており、国連などの目で常に監視されている。テロにはそのような秩序だったことはできない。

常に弱者にしわ寄せがいく世の中を、どうにかしなくてはいけないと心から願う日々である。(せん げんしつ)