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滅亡招く軽蔑と憎悪 マキャベリ著「君主論」

「フィレンツェのマキャヴェリは、『君主論』を書いて、政治を宗教・道徳から切り離す近代的な政治観を提示した」(「詳説世界史B」山川出版社)

高校世界史教科書のルネサンス期でさらっと触れられる「君主論」だが、16世紀に書かれた同書はいまなお世界中のリーダーたちを魅了してやまない。独裁や強権国家の覇権主義が露骨となっている昨今の国際情勢下で読み直すと、数百年の時間の試練に耐えてきた冷徹な人間考察と政治・外交・軍事に関する箴言(しんげん)の重みが増しているようにも思われる。邦訳も複数あり、岩波文庫版(新訳)は平成10年発行で現在31刷。

君主による権力維持の方策を具体的に指南する同書は、簡潔なQ&A方式を取り入れ、説得力もある。例えば、マキャベリが権力基盤を保つ上で最も重視する軍備については「それ自体としては、役に立ち秀れたものであるが、これを呼び入れた者には、ほとんどつねに害をもたらす」と結論付け、援軍がもたらす危険性を端的に説明する。「彼らが敗北すれば、自分も滅亡してしまうし、勝利すれば、自分は彼らの虜になってしまうから」。賢明な君主は自軍に頼ってきたとし「他者の力で勝利するよりはむしろ自己の力で敗北することを望み、他者の軍備によって獲得した勝利などは真のものではないと判断」するとしている。現代にも幾多の安全保障同盟はあるが、マキャベリはそこに潜む深謀遠慮や自主独立精神の劣化にもっと目を向けよ、と警鐘を鳴らしているかのようだ。

同書で繰り返されるのは、滅亡の原因となる軽蔑と憎悪を招くことをできるだけ避けるべし、との戒めだ。特に「第一六章 気前の良さと吝嗇(けち)について」は読み応えがある。まず、惜しみなく与える「気前の良さ」は、君主に害をもたらす、と指摘する。なぜなら、自らの所有物をすり減らせば貧しくなって侮られ、貧しさを避けるために重税を課せば憎まれるから。君主に軽蔑と憎悪が向けられれば、権力基盤は一気に不安定化する。かくしてマキャベリはこう言う。「むしろ憎しみの混ざらない悪評を生み出す吝嗇ん坊という名前を身につけてゆくほうが、はるかに賢明なのである」

気前の良さを競うような側面もみられる総選挙。さて、マキャベリならどの政党に投じるか。

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