話の肖像画

出井伸之(29)めざせ「脱欧米入亜」と「廃県置藩」

マイクロファイナンスの視察先で現地の子供と=2016年、カンボジア(クオンタムリープ提供)
マイクロファイナンスの視察先で現地の子供と=2016年、カンボジア(クオンタムリープ提供)

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《コロナは「新たな隕石(いんせき)」》


「インターネットは隕石である」と宣言してから約25年がたち、僕が予測したような世の中になりました。この流れはこのまま続くとみんなが思っていたと思います。そこに新型コロナウイルス禍が起きました。僕はこのコロナは再び落ちた隕石になると考えています。

「インターネット隕石」後、個人と個人がダイレクトにつながるようになりました。これに対応できなかったかつての恐竜会社は滅び、「GAFA」に代表されるプラットフォーマーという新しい支配者たちが生まれました。そこに「コロナ隕石」が落ち、さまざまな分断が発生し、国の役割や国境が再認識されました。日本人が県境を意識したのは、廃藩置県後初めてではないでしょうか。

デジタル化の争いで日本は勝てませんでしたが、コロナ隕石によって、ゲームチェンジが起きる可能性はあると思います。これをチャンスと捉え、日本は変革しなくてはいけません。

ただ、技術の進化のスピードはどんどん加速しています。コロナ隕石はインターネット隕石よりも早く変化を生みます。僕は10年間で大きく変化すると思っています。インターネット隕石への対応以上のスピード感を持って動く必要があります。


《日本の元気を取り戻す》


僕は明治維新において決めた日本の方向性をコロナ隕石をきっかけに大きく変えるべきだと考えています。そして、海外と国内の二重戦略を立てるべきだと思っています。

海外戦略のキーワードは「脱欧米入亜」です。明治維新では「脱亜入欧」をスローガンに、日本は欧米の一員になるという方向性を持っていました。

当時は欧米が圧倒的な力を持っていましたが、2050年にはアジアのGDP(国内総生産)は世界の半分を超えます。アジアの市場を第一に考えた事業戦略などに変えるべきだし、研究開発もアジアでニーズがある技術を考えるべきではないかと思います。そのためには、「上から目線」ではなく、日本はアジアの一員であるという意識を持つ必要があります。

僕が支援している五常・アンド・カンパニーの慎泰俊さんはマイクロファイナンス(小口金融)でアジアを中心にさまざまな人をサポートしていますし、デジタルエンターテインメントアセットの吉田直人さんと椎名茂さんはシンガポールを拠点に、ブロックチェーン(分散型台帳)技術とエンターテインメントの融合ビジネスを進めています。これらに続く企業が出てくることを期待しています。

2つ目の国内戦略については「廃県置藩」だと思っています。明治維新において「廃藩置県」の名の下に、中央集権化が進められました。県の存在も中央集権のための政府の出先という意味合いが強いと思います。

海外の友人のほとんどが、日本の魅力は地方にあると言います。そして日本の「健康長寿」「安心安全」「環境風土」に非常に関心を持っています。これらのテーマに沿った投資を行うべきです。いまだ地方独特の文化が残っている今がラストチャンスではないでしょうか。ただそのためには、地理的要因や生活圏という考えでいくと、県規模ではなく昔の藩規模で考えるのが良いと思います。

友人のヤフーの安宅和人さんは著書で、日本の中に自然とともに豊かに人間らしい生活を営む「風の谷」を創ろうと書かれていますが、僕は彼に日本が世界の中の「風の谷」になるべきだと言っています。日本そのものを魅力的にすれば、世界に「誇れる国」になると思います。

僕は自分の会社でも、このようなプロジェクトを支援しています。10年後の世界と日本を考え、コロナ隕石を変革のチャンスと捉えましょう。(聞き手 米沢文)

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