朝晴れエッセー

思い出・10月29日

毎朝家の前に、黄色のマイクロバスが止まる。そして、お母さんと手をつないで待っていた幼稚園児の男の子が乗り込んでいく。住宅地内では、ほかにも幾つかの幼稚園の送迎バスが朝と午後、コロナに負けず行き交っている。

思えば私が幼稚園の頃は送迎バスなどなかった。国全体が豊かではなかったし、そもそも交通量が少なく治安も良かった。

だから、私は2キロ近く離れた幼稚園に当たり前のように1人で歩いて通っていた。

ところが神戸の地形は起伏が多い。通っていた幼稚園までの道程にも、ほぼ中間の地点に中学校などが建つ丘があった。

それを越える近道の階段が急で、幼稚園児にはきつかった。しかし、上りきったところから振り返るとわが家が見えた。

そして手を振ってくれる母親の姿があった。それにより勇気を得、私も手を振り幼稚園のある反対側へ下っていった。

そのときの光景や気持ちは不思議なくらいよく覚えている。

現在は、毎日午後の決まった時間に、少し離れたところに住む孫娘の乗ったバスが家の前を通過する。

私は2階の窓から顔を出し、孫娘と手を振り交わすのが日課になっている。ときには添乗の先生も一緒に振ってくださったりする。

孫娘が毎日どのようなことを感じながら手を振っているのかは分からない。しかし、手を振る母の姿を私が覚えているように、孫娘も年取ってから幼き日の思い出として覚えていてくれたらうれしい。

難波亘由 68 神戸市北区