「老後の資金がありません!」 草笛光子、愛嬌あるしゅうとめがはまり役

いまも立ち姿がモデルのように美しい草笛光子(提供写真、板橋淳一撮影)
いまも立ち姿がモデルのように美しい草笛光子(提供写真、板橋淳一撮影)

「老後の資金がありません!」(前田哲監督)は、人生100年時代に誰もが向き合うことになる問題を笑いと涙で描くコメディー映画。草笛光子(88)が、マイペースだが、愛嬌(あいきょう)たっぷりのしゅうとめを演じ大活躍する。芸能生活が70年を超えた大ベテランに、今回の役や久しぶりの歌への思いなどを聞いた。

「老後2千万円不足」問題の騒動も記憶に新しいが、この映画の主人公で主婦の後藤篤子(天海祐希=あまみ・ゆうき)も老後に備え節約の日々だ。だが、しゅうとの葬儀、娘の結婚費用と出費がかさんだうえ、夫の勤め先が倒産。さらに浪費癖のあるしゅうとめ、芳乃(草笛)と同居することになる。

その芳乃を演じる草笛。「この役、引き受けるの、嫌だったんですよ」と意外なことを明かす。「だって、この人、周りをかき回して皆に迷惑かけるでしょ?」

しかし、監督の前田からは「草笛さんは、そのままでおかしいから、演技はしないでください」と注文された。前田には、草笛が芳乃そのものに見えたか。「カチンときた! 100以上の役をやった女優の私のどこがおかしいというのかしら」と憤慨しながらも「ねえ?」と笑った。

芳乃は真っ赤な上着とハイヒールを着こなしたかと思えば、篤子の友人の父親(毒蝮三太夫=どくまむし・さんだゆう)になりすました扮装(ふんそう)で笑わせる。クライマックスでは、見事な歌声も披露。これは、確かに草笛でなければできない役だ。

ただ、「歌には抵抗した」と明かす。草笛は日本のミュージカルの草分け的存在でもあるが、補聴器をつけたら自分の歌声が不自然に聞こえ、歌は避けるようになったという。

また、曲が「ラストダンスは私に」なのにも戸惑った。シャンソン歌手、越路吹雪(こしじ・ふぶき)の持ち歌。草笛は、体調を崩した越路から「これを見て私を思い出してね」と革のブレスレットを贈られていた。その1週間後に帰らぬ人となった。なきがらの頰の冷たさが忘れられないのだ。

「つらいから嫌だった」。やけっぱちな気分で歌い、勢いあまって補聴器を外した。すると、自分の歌声がまろやかに聞こえた。自然に歌えた。歌えたことに驚いた。

「88歳の自分ならではの歌があるのよね」と気づかされたという。映画の芳乃は、家族のため奮闘する。「さて、私は、もう一度、歌と向き合う勇気を持てるのかしらね?」。大ベテランは、自問しながら優雅に取材の席を立ち去った。

垣谷美雨(かきや・みう)の小説が原作。松重豊、柴田理恵、若村麻由美らが共演。(石井健)

くさぶえ・みつこ 昭和8年、神奈川県生まれ。25年、松竹歌劇団入団。33年、音楽バラエティー番組「光子の窓」で人気を博す。映画、ドラマは多数出演。「犬神家の一族」など市川崑監督の横溝正史シリーズには全作出た。また、日本のミュージカルの草分け的存在で、「ラ・マンチャの男」「シカゴ」日本初演に参加。平成11年、紫綬褒章受賞、17年旭日小綬章受賞。

30日から東京・丸の内TOEI、大阪ステーションシティシネマなどで全国順次公開。1時間54分。