鬼筆のスポ魂

明暗分けた阪神とオリの移籍、ブルペンに宿る精神の拠り所 植村徹也

オリックスの優勝が決まり胴上げされる能見篤史(京セラドーム)
オリックスの優勝が決まり胴上げされる能見篤史(京セラドーム)

能見を手放した阪神は優勝を逃し、能見を手厚く迎えたオリックスは優勝を飾った。これは単なる巡り合わせ、偶然なのか…それとも必然だったのか…。

オリックスが1996(平成8)年以来、25年ぶりにパ・リーグ優勝を決めた。27日に2位のロッテが楽天に敗れて決定。6年連続Bクラス、昨季まで2年連続最下位だった球団が大変身を遂げた。2004年に近鉄と合併し、オリックス・バファローズとなってから初めてのリーグ制覇だった。

優勝決定後、無観客の本拠地・京セラドームで就任1年目でチームを頂点に導いた中嶋聡監督(52)がナインの手で胴上げされ、続いて88年に阪急ブレーブスを買収して以降、チーム造りに心血を注いできた86歳の名物オーナー、宮内義彦オーナー(オリックス・シニア・チェアマン)が宙に舞った。「本当にうれしいです。(胴上げは)うれしさの中に怖さがあり、本当に楽しかったです」と中嶋監督が表情を崩せば、宮内オーナーは「胴上げしてもらって感激です。こんな気持ちのいい夜を過ごすのは何年ぶりかなぁ」と話した。

そして、宙を舞った選手の中に今季、移籍1年目の能見篤史投手兼任コーチ(42)の姿があった。プロ17年目の今季はリリーフで26試合に登板し、0勝0敗2セーブ、防御率4・03、投球回数は22回⅓だった。昨年オフ、04年のドラフト自由枠で入団以来、16シーズン在籍していた阪神から自由契約になるとオリックスが即、コーチ兼任で招いた。移籍初年度は自身の投球だけではなく、指導者としての存在感の光るシーズンだった。

「能見の豊富なキャリアが若手中心のオリックス投手陣に大きな影響を与えていた」と球団OBは話している。先発陣はプロ5年目、23歳の右腕・山本由伸投手が18勝5敗、防御率1・39。プロ2年目の20歳、左腕の宮城大弥投手が13勝4敗、防御率2・51と両輪で大活躍した。プロ4年目の25歳、左腕の田嶋大樹投手も8勝8敗、防御率3・58と昨季までの成績を大きく上回った。能見は若い投手たちに配球面で新たな引き出しを与えた。マウンドに臨む心の持ち様も伝え、自身の練習態度で野球の厳しさを教えた。精神的な支柱となった貢献度は大きい。

逆に能見を昨年オフに自由契約にした阪神は26日の今季最終戦の中日戦(甲子園球場)に0対4で敗れた瞬間、16年ぶりのリーグ優勝を逃した。同日、DeNAに勝ったヤクルトが逆転優勝を飾った。

振り返ると興味深い数字がある。阪神は交流戦明けの6月18日以降、9月30日までの63試合、26勝32敗5分けと負け越した。ヤクルトに逆転された要因はこの〝夏枯れ〟だ。このうち先発、中継ぎ陣が崩れて相手に5点以上奪われた試合は26試合あり、〇●は1勝23敗2分け。10月に入り、投手陣は持ち直して20試合を12勝5敗3分け。5点以上取られたのは1試合だけ。夏場の苦しい時期に阪神は先発陣が崩れ、ビハインドでマウンドに向かったリリーフ陣も試合を作れず、打線に反発力もなかった。

一方のオリックスはどうか…。交流戦明けの6月18日以降、最終戦の10月25日の楽天戦(楽天)までの78試合で相手に5点以上取られた試合は18試合(16敗2分け)だけ。山本と宮城という両輪が安定していることもあるが、ビハインドで出ていくリリーフ陣も試合を壊さなかった。これを〝能見効果〟と見ても不思議ではない。

能見の昨季の投手成績は34試合に登板して1勝0敗1セーブ、防御率4・74。2季連続の1勝だった。阪神球団は年齢的な問題もあって〝見切り時〟と思ったのだろう。しかし、藤川球児も昨季限りで引退した。阪神の今季のブルペンに果たして精神的な拠(よ)り所があったのだろうか。「虎を野に放つ」…という。能見に新たなキャリアが生まれたことを今は祝福したい。

(特別記者)