伝統芸能 受け継ぐ子供たち 「本物」に学び感性磨く

子供たちに仕舞の指導をする山本章弘さん(右)=大阪市中央区(山本能楽堂提供)
子供たちに仕舞の指導をする山本章弘さん(右)=大阪市中央区(山本能楽堂提供)

存在は知っていても、何となく難しそうと思われがちな人形浄瑠璃文楽や能などの伝統芸能。大人向けの芸術というイメージがあるが、大阪で子供向けの講習が息長く続いている。感受性が育まれる時期に伝統芸能の魅力に触れ、感性や表現力を磨いてもらう狙い。約30年の歴史をもつ講習もあり、文楽の技芸員になった卒業生も。伝統芸能に向き合う子供たちを訪ねた。

人形浄瑠璃で息ぴったり

「もっと物語に合わせて音を高く。自分たち、良くなっているのわかるやろ」

10月中旬、大阪市立高津小学校(同市中央区)。背筋をまっすぐ伸ばして正座する児童を前に、文楽太夫の竹本織太夫(おりたゆう)さん(46)が義太夫節の語りを指導していた。

国立文楽劇場近くにある同校。もともと文楽劇場の場所に建っていたが、昭和45年に移転した。そんな地域のつながりから「文楽を通して地域に誇りや愛情を持ってもらおう」と平成12年9月、全国でも珍しい文楽の授業が始まった。毎週火曜日と金曜日、人形遣いで人間国宝の桐竹勘十郎さんをはじめとする文楽の技芸員が先生となり、総合的な学習の時間で文楽の授業を受け持っている。

大阪発祥の伝統芸能、文楽は、太夫と三味線、人形遣いの三業(さんぎょう)が一体となった総合芸術。授業では6年生23人が3つのグループに分かれ、講堂や文楽室などで熱心に学ぶ。

文楽の人形遣いの練習をする児童たち=大阪市中央区の高津小学校(永田直也撮影)
文楽の人形遣いの練習をする児童たち=大阪市中央区の高津小学校(永田直也撮影)

現在は秋の学習発表会に向けた稽古を積んでいる。今年の演目は、五穀豊穣を祈る「二人三番叟(ににんさんばそう)」と、牛若丸、弁慶の出会いを描いた「鬼一法眼三略巻(きいちほうげんさんりゃくのまき)―五条橋の段」。

講堂では、3人で1体の人形を動かす人形遣いの授業が行われていた。児童らは人形の首や足を繊細に動かし息もぴったり。また、文楽室では、真剣な表情で太棹(ふとざお)三味線の練習をしていた。重厚な音色が響きわたり、うまく弾けると笑みがこぼれた。

人形遣いリーダーの釜田みつきさん(12)は「習い始めて9カ月ですが、人形の気持ちになりきって動かすのが難しい。本番は人形になりきれるよう、心を合わせてがんばりたい」と話す。

クラスが一つになって取り組むことが、この授業の最大の成果かもしれない。卒業生の1人は文楽の技芸員になり、公演などで活躍している。

能舞台でのびのび

「子供たちが伸び伸びと能に触れる機会を作りたい」。そんな思いで平成19年から能の演目に関係する絵を描いたり、能面を作ったりする小学1~6年生向けの講座を開いているのは、山本能楽堂(同市中央区)だ。

この取り組みが始まったのは、能楽の親子鑑賞会で子供たちが窮屈そうにしているのを見て、同能楽堂代表理事で観世流シテ方の山本章弘さん(60)が「能が始まる前に紙芝居にして見せたらどうか」と考えたのがきっかけだ。子供たちは自分たちで作った能面をつけて歩くなどすると、能への興味を深め、舞台に集中するようになるという。

さらに、能について学ぶ連続講座「能と遊ぼう!」も開講。能楽堂という独特の空間を「探検」したり、能面と能装束をつけて舞台で舞う体験をしたりする。

山本能楽堂は全国の小中高などにも出張授業をしており、同能楽堂で行われた講座も含めると、これまで約8万人が受講した。

山本さんは「幼少期は感受性が強いので先入観なく面白いと思ってもらえる。この楽しい記憶が将来、能の鑑賞者になったり、演者になったりする。次に伝えていくためには、子供たちに愛されることが大切だと思う」と力を込める。

上方舞ではんなり

「子供は座っておじぎをすることがわからない。礼儀から始めないといけないので根気がいりますね」

こう話すのは、200年余りの歴史のある上方舞山村流のベテラン、山村若佐紀(わかさき)さん。平成2年から大阪府東大阪市内で幼児~高校生を対象に「子ども上方舞教室」を開いている。

上方舞は江戸時代に京都、大阪で発展してきた日本舞踊のジャンル。半畳の畳で舞う座敷舞として発達した。はんなりとした穏やかな舞は大阪の歴史や風土とともに栄え、かつては女子の習い事としても盛んだったという。

山村若佐紀さん(右)の指導を受ける子供たち=大阪府東大阪市(上岡由美撮影)
山村若佐紀さん(右)の指導を受ける子供たち=大阪府東大阪市(上岡由美撮影)

10月23日に小阪公民分館(東大阪市)で開催された教室には、4~15歳の約10人が参加した。浴衣を着て座り方やおじぎの仕方などを教わり、童謡「叱られて」「さくらさくら」に合わせた踊りを練習した。

2歳から通っている大阪市東成区の幼稚園児、藤井澪ちゃん(4)は、教室に行く日を指折り数えて待っていた。1年目は全く踊らなかったが、昨年は最後に1回だけ舞い、今年はみんなと一緒に踊った。

若佐紀さんは「子供たちの熱心さは驚くほど。良い芸は人間性を磨かないとできませんから、上方舞からやさしい気持ちや思いやりの心に触れてほしい」と話している。(上岡由美)